タイで会社を設立するとき、商号予約と法人登記だけを完了しても、すぐにすべての事業を始められるわけではありません。外資規制、業種別許可、税務登録、社会保険、外国人の就労許可は、それぞれ別の条件と時期で動きます。最初に「会社を作る手順」だけを追うと、登記後に営業できない、銀行口座やVAT登録で書類が足りない、採用したのに就労開始できないといった問題が起きます。
本記事では、タイの非公開株式会社(Private Limited Company)を中心に、事業内容の判定から会社登記、資本金、VAT、社会保険、e-WorkPermitまでを、実際に事業を開始できる順序で整理します。外資100%、タイ企業との合弁、BOI認可を検討する企業だけでなく、タイ人株主を含む小規模な会社にも共通する設立後の実務を含みます。
2026年7月時点の結論:最初に売上となる事業を一つずつ列挙し、外資規制と業種別許可を確認します。その結果に合わせて株主構成、資本金、取締役、事業目的、事務所を決め、DBD Biz Registで会社を登記します。登記後は、税務・会計、必要に応じたVAT、従業員を雇う場合の社会保険、外国人が働く場合のビザ・就労許可を並行して進めます。「登記完了=営業開始可能」ではありません。
会社登記と営業許可は別の手続き

会社登記は、会社が法人として存在するための手続きです。一方、営業権は、外国人事業法や業種別法令に照らして、会社が具体的な商品・サービスを提供できるかという問題です。たとえば、会社の事業目的に「コンサルティング」「飲食店」「輸出入」と記載されていても、その記載だけで外国人会社の制限事業、飲食店営業、酒類販売、輸入などの許可を得たことにはなりません。
タイで予定する事業が外国人事業法の制限対象になるか、FBL、BOI認可とFBC、タイ資本との共同事業のどの経路を使うかは、タイの外国人事業規制と外資参入ルールで詳しく整理しています。会社設立は、この判定を終えた後の実行工程として考える必要があります。
登記前に「何で売上を立てるか」を確定する

最初に作るべき資料は、会社概要ではなく売上項目の一覧です。顧客に何を提供し、どの契約で、何の対価を受け取るかを一行ずつ書き出します。製造業の会社でも、製品販売、据え付け、保守、設計、ライセンス、代理店手数料が別々の収入になるなら、それぞれを確認します。
- 商品・役務:製造、卸売、小売、仲介、賃貸、保守、コンサルティングなどに分ける。
- 顧客と提供場所:タイ国内顧客か海外顧客か、作業をどこで行うかを明確にする。
- 契約と請求:契約書の業務名、請求書の項目、実際の作業を一致させる。
- 規制経路:外国人事業法、BOI、業種別許可、施設許可の根拠を各売上に付ける。
この整理がないまま広い事業目的を登記すると、会社は存在しても主力売上を合法的に計上できない可能性があります。反対に、将来の可能性をすべて申請へ詰め込むと、説明資料が膨らみ、実際の事業と登記・認可の文言がずれやすくなります。開業時に行う事業と、将来追加する事業を分けて設計する方が実務的です。
タイ進出で使われる会社形態

一般的な事業運営では、タイ法上の非公開株式会社がよく使われます。株主の責任は原則として未払い株式額までに限定され、タイ国内で契約、雇用、請求、資産保有を行う事業主体になります。ただし、外資比率や事業内容に応じて、外国人事業法その他の規制が重なります。
| 形態 | 主な用途 | 確認すべき点 |
|---|---|---|
| 非公開株式会社 | タイで継続的に売上を立て、従業員を雇い、契約を行う | 株主、資本、取締役、外資規制、税務、許認可 |
| 支店 | 外国法人自身がタイで事業を行う | 本店の責任、FBA、送金、税務、許認可 |
| 駐在員事務所 | 本社向けの情報収集・連絡など限定業務 | タイで収益を得ないこと、活動範囲を超えないこと |
| 地域統括・BOI対象拠点 | 対象条件を満たす統括・技術・製造など | BOIの対象活動、投資条件、認可範囲、報告義務 |
「設立しやすい形」ではなく、予定する収益、責任の所在、必要な人員、資金移動、許可の取りやすさで選びます。タイで顧客へ請求する予定があるのに駐在員事務所を選ぶ、外国法人の責任を切り分けたいのに支店を選ぶ、といった不一致を避けます。
株主・資本金・営業権は三つの別問題

株主構成は会社の所有と議決権、資本金は出資と事業資金、営業権はその会社が行える事業の範囲を示します。資本金を大きくすれば外資規制が自動的に解消するわけではなく、タイ人が過半数の株式を持てば業種別許可や外国人の就労許可が不要になるわけでもありません。
登録資本金には、すべての会社に共通する一律の「正解」がありません。会社法上の払込、外国人事業法上の最低資本、BOI認可条件、業種別法令、外国人のビザ・就労許可で参照される会社要件は分けて確認します。実際の開業には、登記費用だけでなく、保証金、賃料、設備、在庫、給与、税金を支払える運転資金も必要です。
タイ側株主がいる場合は、本人が自己資金で実際に出資し、株主として議決権や配当権を持つことが前提です。外国人側が資金を渡し、タイ人に名義だけを借りる構造は会社設立の手段ではありません。摘発例と刑事リスクは、タイの外国人名義貸しとは?規制とリスクを参照してください。
タイの非公開株式会社は現在2人以上で設立できる
2022年の民商法典改正により、タイの非公開株式会社に必要な発起人は3人以上から2人以上へ変更され、2023年から施行されています。発起人は自然人で、会社設立後は株主になります。会社は存続中も原則として2人以上の株主を維持します。
古い解説や更新されていない英語資料には「3 promoters」「3 shareholders」と残っている場合があります。設立時は、最新の法令、DBDの申請画面、申請担当者の案内を基準にしてください。人数だけを満たせばよいのではなく、各株主の本人確認、出資額、資金源、持分、議決権を説明できる状態が必要です。
タイで会社を設立する7段階

1.事業・規制・進出経路を決める
売上項目ごとに、タイ資本との合弁、FBL、BOI認可とFBC、条約・個別法のどの根拠で営業するかを決めます。BOIを使う場合は、製品・サービス、工程、投資額、設備、雇用、技術を認可対象として説明できる粒度まで具体化します。
2.商号を予約する
希望商号が既存会社と重複・類似していないか、禁止語や認可が必要な語を含まないかを確認し、DBDのデジタル法人登記システムで予約します。日本語や英語のブランド名と、登記上のタイ語・英語社名が同じように使えるとは限らないため、契約書、銀行、看板、ドメインで使う表記も先に決めます。
3.基本定款と会社の設計を固める
商号、所在地、事業目的、登録資本金、株式、発起人などを確定します。事業目的は実際の売上と許可に合わせます。広く書けば安全というものではなく、許可が必要な活動を記載・実行する場合は、その営業根拠が別途必要です。
4.株式引受けと設立会議を行う
発起人が株式を引き受ける人を確定し、会社の設立会議で定款、取締役、権限、監査・会計に関する事項などを決めます。各株式の払込額は額面の25%以上が必要です。実際の事業・認可・資金計画によっては、それを超える払込が必要になります。
5.取締役と署名権限を決める
誰が会社を代表し、単独署名か共同署名か、社印を併用するかを明確にします。登記上の署名条件は、銀行口座、賃貸借、顧客契約、雇用契約、税務申告にも影響します。日常の支払いまで複数国の取締役の原本署名が必要な設計にすると、運営が止まりやすくなります。
6.DBD Biz Registで申請する
DBDはデジタル法人登記システム「DBD Biz Regist」を提供しており、会社設立、変更登記、電子署名、手数料支払い、証明書の取得などをオンラインで進められます。申請者・関係者の本人確認、タイ語の会社情報、住所資料、署名が揃っていることが前提です。
7.登記証明を取得し、開業手続きを開始する
会社番号、宣誓供述書、株主名簿、会社証明書などを取得し、銀行、税務、社会保険、許認可、賃貸、取引先審査へ使用します。登記内容を変更した場合は、DBDだけでなく銀行、歳入局、社会保険、許可官庁、契約先の登録も更新します。
申請前に確定しておく項目
| 項目 | 決める内容 | 後から問題になりやすい点 |
|---|---|---|
| 事業目的 | 開業時の売上と許可に合う活動 | 登記目的と契約・請求内容が一致しない |
| 株主 | 本人、出資額、持分、資金源 | 名義だけの株主、払込証拠がない |
| 資本金 | 法令・認可条件と実際の運転資金 | 登記額だけ大きく、事業資金が不足する |
| 取締役 | 代表者、署名方法、社印の要否 | 銀行・契約のたびに署名が揃わない |
| 所在地 | 登記・税務・許可に使える住所 | 貸主同意、建物用途、看板、郵便受領が不足 |
| 会計年度 | 決算日、記帳開始日、申告担当 | 登記後の取引資料が保存されていない |
特に所在地は、単なる郵送先ではありません。VAT登録、業種別許可、外国人の就労場所、現地調査に使われることがあります。賃貸契約を締結する前に、貸主が必要書類を提供できるか、建物の用途と事業が合うか、複数社が同一住所を使う場合の条件を確認します。
設立費用と期間は「登記」だけで見積もらない
会社設立費用は、DBDへ支払う政府手数料、専門家報酬、翻訳・認証、住所・賃貸、資本金、ライセンス、銀行、会計・税務、ビザ・就労許可に分けて見積もります。登録資本金は政府への手数料ではなく会社の資金です。専門家から「設立一式」の見積もりを受ける場合も、何が含まれ、何が設立後の追加費用かを分離します。
期間も同様です。申請データが正確で、本人確認と署名が揃えば法人登記自体は比較的早く進む場合があります。しかし、外資規制の判定、BOI・FBL、物件、銀行、VAT、業種許可、ビザ・就労許可まで含めた開業日は別です。「最短○日」という広告を、実際に売上を立てられる日数と読み替えないでください。
工程表には、各手続きの申請日だけでなく、前提資料、担当者、審査中にできないこと、遅れた場合に影響する契約を記載します。物件の賃料発生日や外国人駐在員の赴任日を、許可取得前に固定すると無駄な固定費が発生します。
会社登記後90日で行うこと

設立直後:会社情報と原本を固定する
登記証明、株主名簿、定款、設立会議、取締役・署名権限、払込資料を一つの管理台帳へまとめます。会社名、住所、税番号、銀行情報の正式表記を決め、契約書、請求書、社印、メール署名で表記を統一します。
取引開始前:銀行・会計・税務を接続する
法人口座、会計ソフトまたは会計担当、請求書と領収書の発行方法、支払承認、証憑の保存方法を整えます。会社設立前に発生した費用を会社費用として扱えるか、株主・取締役の立替金をどう精算するかも会計担当と確認します。
雇用前:給与・社会保険・就労資格を整える
雇用契約、給与日、勤怠、源泉税、社会保険、個人情報管理を準備します。外国人は、会社の取締役や株主であるだけでは働けません。担当業務、勤務地、ビザ、就労許可の条件を整えてから業務を開始します。
営業開始前:許可と契約の範囲を照合する
FBL・FBC・BOI・業種別許可に記載された活動と、営業資料、見積書、契約書、請求項目を照合します。許可外の役務を「付帯サービス」として無償提供しても、実態として営業活動なら問題になる可能性があります。
法人税・VAT・源泉税の基本

タイ法人の法人所得税は、原則として純利益に対して20%です。通常は事業年度終了後150日以内に年次申告(P.N.D.50)を行い、事業年度前半6カ月に対する半期申告(P.N.D.51)もあります。中小企業向け税率などの適用は、資本金、売上、利益その他の条件を年度ごとに確認します。
VATの課税対象事業で年間売上が180万バーツを超える場合、原則としてVAT登録が必要です。事業開始前に対象となる場合、または基準到達後30日以内など、状況に応じて登録時期が定められています。VAT登録後は売上がない月でも月次申告が必要になるため、登録を「会社設立セットの一部」として無条件に行うのではなく、事業内容と売上見込みで判断します。
さらに、給与、サービス料、賃料、広告料、配当、海外送金などには源泉税が関係する場合があります。取引開始前に、誰がどの税率で控除し、どの証明書を発行・受領するかを会計フローへ組み込みます。タイでオンライン販売を行う場合は、タイEC事業の登録・税務・法令対応も関連します。
従業員を1人でも雇ったら社会保険を確認する

社会保障事務局の手続案内では、対象となる従業員を1人以上雇用する事業主は、最初の雇用から30日以内に事業主と被保険者を登録します。新たに雇用した従業員の登録、退職、給与・拠出の処理を、毎月の給与計算と接続させます。
役員、試用期間、短期雇用、外国人などの扱いを自己判断で除外しないでください。雇用実態、国籍、在留資格、他制度の加入状況によって確認が必要です。遡って登録・修正するより、最初の採用前に雇用契約と給与マスターを整える方が負担を抑えられます。
外国人のビザと就労許可

外国人がタイ法人の株主または取締役であっても、それだけでタイ国内の業務を行えるわけではありません。就労内容、雇用主、勤務地、在留資格、就労許可を一致させます。商談、現場管理、顧客対応、署名、日常的な事業運営がどの手続きに当たるかを、赴任前に確認します。
タイ雇用局は2025年10月13日から全国のe-WorkPermitを開始し、外国人就労許可の申請・更新等をオンライン化しています。ただし、オンライン化は審査条件の撤廃ではありません。一般会社、BOI認可企業、特別制度では、会社側の資料、資本・雇用に関する条件、申請窓口と手順が異なります。
「外国人1人につき資本金○百万バーツ、タイ人従業員○人」という目安はよく使われますが、すべての会社と申請経路に一律適用される単独ルールとして扱うべきではありません。ビザ延長、一般の就労許可、BOIのワンストップ手続きなど、実際に使う経路で最新条件を確認します。
業種別許可と事務所・店舗の条件

会社登記後に必要な許可は事業で変わります。飲食店なら食品・衛生、酒類、看板、施設、外国人事業規制、ホテルなら建物用途とホテル営業、工場なら工場・環境・危険物、輸入なら商品別の登録や通関、教育・人材・旅行・金融・通信なら各所管法令を確認します。
- 物件契約前:予定用途、貸主同意、登記・VAT・許可に必要な書類、看板設置を確認する。
- 工事前:建物用途、改装、消防、衛生、設備、近隣条件を確認する。
- 仕入れ前:輸入者登録、商品認証、表示、保管、販売許可を確認する。
- 広告前:許可取得前に営業中と誤認させないよう、開始条件と表示を確認する。
電力契約や屋根置き太陽光を含む事業所インフラは、タイの電気料金・Ft・太陽光の実務で整理しています。飲食店の市場と運営条件は、タイ飲食店市場の動向と成功条件も参照してください。
会社設立でよくある7つの失敗
- 登記できたので営業できると判断する:FBAや業種別許可が未完了のまま契約・請求を始める。
- 出資比率だけで適法性を判断する:タイ株主の実際の出資や権利を説明できず、名義貸しを疑われる。
- 登録資本金だけを決める:払込証拠、認可条件、運転資金、外国人雇用を別々に確認していない。
- 使えない住所で登記する:貸主資料、VAT現地確認、事業用途、許可条件を満たせない。
- 署名権限が運営に合わない:銀行・契約・税務のたびに海外役員の署名待ちになる。
- 会計を売上発生後に始める:設立費、立替、銀行、請求書、源泉税の証拠が揃わない。
- 外国人が許可前に働く:取締役・株主だから働けると考え、業務開始時期を誤る。
設立を急ぐ場合ほど、工程を省くのではなく、開業に必須の判断を先に終える必要があります。会社名、株主、資本金を先に固定するより、売上、許可、物件、人員、資金の依存関係を確定した方が、後の登記変更と契約変更を減らせます。
タイ法人の開業チェックリスト
- 初年度の売上項目と契約形態を列挙した。
- 各売上についてFBA、BOI、業種別許可の根拠を確認した。
- 株主の本人、資金源、持分、議決権を確認した。
- 法令・認可・運転資金を含めて資本金と払込計画を決めた。
- 取締役と署名条件が日常運営に使える設計になっている。
- 登記・VAT・許可・就労場所に使える所在地を確保した。
- 会社原本、契約、請求、支払、証憑を保存する担当を決めた。
- 法人税、VAT、源泉税、給与税の申告カレンダーを作った。
- 従業員の雇用契約、給与、社会保険を準備した。
- 外国人ごとにビザ、就労許可、勤務地、業務内容を確認した。
- 必要な業種別許可の取得前に営業・広告・輸入を開始しない。
- 登記・許可の範囲と契約書・請求書の内容を最終照合した。
よくある質問
タイの会社は外国人1人でも設立できますか?
非公開株式会社は原則として2人以上の発起人・株主が必要です。また、外国人持分が50%以上になる会社は外国人事業法上の「外国人」に当たり、予定事業が制限対象なら別の営業根拠が必要です。
資本金はいくら必要ですか?
全社共通の一つの金額では決まりません。会社法上の株式払込、外国人事業法、BOI、業種別許可、ビザ・就労許可、実際の運転資金を分けて見積もります。登記上の数字だけを満たしても開業資金が足りなければ運営できません。
会社登記後、すぐ請求書を発行できますか?
法人としての契約・請求体制に加え、予定事業を営業できる根拠、税務登録、VATの要否、業種別許可を確認します。登記の完了だけで、すべての事業について請求可能になるわけではありません。
VATは会社設立と同時に登録すべきですか?
VAT対象事業、年間売上見込み、顧客の要請、輸入・設備投資などで判断します。登録後は月次申告が発生するため、不要な会社が形式的に登録するのではなく、会計担当と登録時期を決めます。
自宅やバーチャルオフィスを会社住所にできますか?
法人登記だけでなく、賃貸・所有者の同意、建物用途、VAT、業種別許可、外国人の勤務地、現地確認に使えるかを確認します。住所サービスの契約だけで全手続きに対応できるとは限りません。
BOI認可を取れば会社設立後の手続きは不要ですか?
不要にはなりません。BOI認可は対象事業の投資奨励であり、会社登記、FBC、税務、会計、社会保険、個人ごとのビザ・就労許可、認可条件の履行と報告が別に必要です。
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本記事は2026年7月19日時点の公表資料に基づく一般的な解説です。外資規制、会社登記、税務、雇用、ビザ・就労許可、業種別許可は、株主構成、事業内容、所在地、申請経路によって結論が変わります。実際の設立・投資・営業開始前に、DBD、BOI、歳入局、社会保障事務局、雇用局、業種所管官庁およびタイ法の有資格専門家へ個別に確認してください。


