タイで会社設立や不動産投資を検討する日本人の間で、「タイ人名義で会社を作れば大丈夫」「タイ人の名前を借りれば土地も実質的に自分のものにできる」といった話が今も流布しています。こうしたスキームの多くが、いわゆる「外国人名義貸し(ノミニー)」に該当しうるものであり、近年タイ政府が本格的に取り締まりを強化している領域です。
2026年にかけては、会社登記段階での投資確認書の義務化や、高リスク業種の重点調査、観光地での一斉摘発など、名義貸しを狙い撃ちにした動きが相次いでいます。表向きはタイ人名義でも、実質的に外国人が支配している構造は、今後ますますリスクが高まるとみられます。
本記事では、タイの外国人名義貸しをめぐる法律・規制の枠組みから、最近の取り締まり動向、関与した場合のリスクと罰則、名義貸しが多い業種・地域、そして今後の見通しとリスク管理のポイントまで、日本人ビジネスパーソン向けに整理して解説します。
タイにおける外国人名義貸しの法律と規制

「外国人名義貸し(ノミニー)」とは何か
タイでいう「名義貸し(ノミニー)」は、法律上はタイ人名義であっても、実際には外国人が出資・支配しているにもかかわらず、それを隠すためにタイ人が名義だけを貸している状態を指します。典型的には次のようなパターンです。
- 会社の株主名簿上はタイ人が過半数だが、実際には外国人が資金を出し、タイ人株主は出資していない、または出資分をすぐに外国人から受け取っている
- タイ人株主が議決権をほとんど持たず、実質的な意思決定権が外国人に集中しているにもかかわらず、形式上はタイ人過半数として登記している
- 不動産をタイ人名義で購入し、実質的な所有者は外国人であるにもかかわらず、その関係を隠している
こうしたスキームは、タイの外資規制を潜脱するものとみなされる可能性が高く、特に外国人事業法の観点から違法と判断されるリスクがあります。
外国人事業法と「外国人」の定義
タイで外国人ビジネスを語るうえで避けて通れないのが、1999年に制定された「外国人事業法(Foreign Business Act:FBA)」です。この法律は、タイ国内の一定の業種について、外国人による参入を禁止・制限する枠組みを定めています。
ここで重要なのは、「外国人」の定義です。外部の解説資料やJETROの情報などによれば、一般に次のような法人が「外国人」と扱われます。
- 外国で設立された法人
- タイで設立された法人であっても、株式の50%以上を外国人が保有している法人
- その他、判例や当局の運用上、実質的に外国人が支配しているとみなされる法人が、FBAの規制対象と解釈される場合があります。
この定義があるため、「タイ人株主51%・外国人株主49%」という形式をとれば自動的にタイ法人扱いになるわけではありません。資金の出所や議決権の配分などを総合的に見て、実質的に外国人が支配していると判断されれば、外国人事業法の規制対象になりうると解釈されています。
外国人事業法第36条・第37条と名義貸し禁止
外国人名義貸しを直接問題にするのが、外国人事業法の第36条・第37条です。外部の法律事務所やビジネス誌の解説によれば、これらの条文は概ね次のような趣旨を持つとされています。
- タイ人が、外国人のために株式を保有したり、名義を貸したりして、外国人による規制業種への投資を間接的に支援する行為を禁止する
- 名義貸しに関与したタイ人だけでなく、実質的な支配者である外国人側も処罰対象となる
一般に、外国人事業法36条前後の規定が、タイ人名義を利用した実質的な外国人支配(いわゆる名義貸し)の禁止や、違反事業に対する停止命令・処罰などを定めていると解説されています。
また、タイの裁判例では「形式より実質」を重視する考え方が示されているとされ、株主名簿や登記上の形式だけでなく、資金の流れ、利益配分、意思決定の実態などから、名義貸しかどうかを判断する傾向があると解説されています。
このため、「タイ人株主を形式的に入れておけば安全」という発想は、現在の運用実務からすると非常に危ういと考えた方がよいでしょう。
2026年4月からの投資確認書義務化と会社登記規制
2026年4月1日からは、会社登記の段階で名義貸しを防ぐための新たな運用が始まると報じられています。外部の専門家サイトの解説によると、タイ商務省・事業開発局(DBD)の「中央パートナー・会社登記所命令第1号(1/2569)」に添付されている投資確認書(หนังสือยืนยันการลงทุน)の提出が、2026年4月1日以降、一定の会社・パートナーシップの構成変更登記において求められています。
同命令に基づき、代表的なケースとして次のような場面が挙げられます。
- 外国人を持分会社の社員とする変更登記
- 外国人を株式会社の署名権を有する取締役とする変更登記
- その他、外国人が関与する会社構成の変更で、名義貸しの疑いが生じうるケース
投資確認書では、タイ人株主が実際に出資できるだけの資金力を持っているか、資金の出所がどこか、といった点を示す資料の提出が求められると報じられています。これにより、実態のないタイ人株主を使った名義貸しスキームは、登記段階で発見されやすくなったとみられます。
さらに、商務省事業開発局(DBD)が「高リスク業種」を指定し、これらの業種については会社登録時の審査を強化しているとする報道もあります。商務省事業開発局(DBD)が「高リスク業種」に分類される事業について、外国人と共同で事業を行うタイ人株主に財務証拠の提出を求める措置を開始した結果、報道によれば、これら高リスク業種の新規登録件数が前年同期比で約60%減少したとされています。名義貸し目的の新規設立が抑制されている可能性があると指摘する報道もあります。
最近の政府の取り締まり状況とその背景

観光地での一斉取り締まりと名義貸し摘発
AsiaPicksがこれまで報じてきたように、2026年前後、タイ政府は観光地を中心に名義貸し事業の取り締まりを強化しています。特に、プーケットやパンガン島といったリゾートエリアでは、次のような動きが相次いでいます。
- リゾート施設やヴィラ、レストランなどを対象とした一斉捜査
- 土地の不法占拠と名義貸しスキームが組み合わさった事案の摘発
- 疑いのある会社の登記情報、資本構成、資金の流れの精査
パンガン島では、複数のリゾート施設が名義貸し疑惑で捜査対象となり、土地や建物が押収されたケースも報じられています。これらの事案では、表向きはタイ人名義の会社が運営しているものの、実際には外国人が資金を出し、運営を主導していたとみられる構造が問題視されています。
警察・商務省・移民局など複数機関による連携
最近の取り締まりの特徴は、警察、商務省、移民局、税務当局など複数の機関が連携している点です。外部メディアの報道では、タイ王国警察が「外国人による違法活動の一掃」を掲げ、不法滞在、違法就労、名義貸しビジネス、越境犯罪などを一体的に取り締まる方針を示したとされています。
名義貸しは単なる登記上の問題にとどまらず、次のような他の違法行為と結びつきやすいと指摘されています。
- 不法就労:実質的な経営者である外国人が、適切な就労ビザや労働許可証を持たずに働いている
- 脱税:売上や利益を過少申告し、税負担を回避している
- 土地不法占拠:国有地や保護区域を不正に占拠し、リゾート開発などに利用している
このため、名義貸しの摘発は、単に会社登記の是正にとどまらず、ビザ・労働許可、税務、土地利用など複数の観点からの調査につながりやすい点に注意が必要です。
なぜ今、名義貸し取り締まりが強化されているのか
名義貸し自体は以前から違法とされてきましたが、近年になって取り締まりが一段と強まっている背景には、いくつかの要因があるとみられます。
- 観光地での地元住民との摩擦:リゾートエリアで外国人主導の事業が増える中、地元住民の雇用や環境への影響が問題視され、政治的な圧力が高まっているとされます。
- 税収確保と経済の透明性向上:名義貸しスキームは、売上の過少申告や利益の国外移転と結びつきやすく、税収面での損失を招きます。タイ政府は税収基盤の強化と投資環境の透明化を進めており、その一環として名義貸しを問題視していると考えられます。
- 国際的なコンプライアンス要求:マネーロンダリング対策やOECD加盟への動きなど、国際的なコンプライアンス基準への対応が求められる中で、実態の不透明な名義貸し構造はリスク要因とみなされやすくなっています。
- デジタル化による監視能力の向上:会社登記、税務、土地登記、出入国記録などのデータがデジタル化され、当局が横断的に分析できるようになりつつあります。これにより、名義貸しの実態を把握しやすくなったとする専門家の見方もあります。
こうした要因が重なり、「名義貸しは昔からグレーだが、実際には黙認されている」という従来の感覚は、今後ますます通用しにくくなると考えた方が現実的です。
名義貸しに関与するリスクと罰則

刑事罰:懲役刑と高額罰金の可能性
外国人事業法第36条・第37条に違反した場合、タイ人の名義人だけでなく、実質的な支配者である外国人も刑事責任を問われる可能性があります。外部の法律事務所やニュースサイトの解説では、名義貸しに関与した場合、最長3年の禁錮刑や高額の罰金が科される可能性があるとされています。
具体的な罰金額については、報道や解説記事で一定のレンジが示されているものの、条文の正確な内容や最新の運用は、公式な法令集や専門家による確認が必要です。いずれにせよ、「罰金だけ払えば済む」というレベルではなく、実刑リスクを含む重い犯罪として扱われうる点は押さえておくべきでしょう。
法人への影響:事業停止・ライセンス取消・解散命令
名義貸しが発覚した場合、個人の刑事責任だけでなく、法人自体にも重大な影響が及びます。外部の専門家解説では、次のようなリスクが指摘されています。
- 外国人事業法違反を理由とした事業ライセンスの取り消し
- 裁判所による法人解散命令
- 行政当局による営業停止命令や資産差し押さえ
特に、外国人事業ライセンスやBOI(投資委員会)の恩典を受けている場合、名義貸しが発覚すると、これらの許認可が取り消される可能性があります。許認可の取り消しは、事業継続そのものを不可能にするため、実務上は「ビジネスの死刑宣告」に近いインパクトを持ちます。もっとも、どのような場合に誰がどの程度処分を受けるかは、個別事案により判断されると解説されています。
民事・商業上のリスク:契約無効・投資回収不能
名義貸しスキームに依存している場合、刑事・行政上のリスクに加えて、民事・商業上のリスクも無視できません。
- 契約の有効性への疑義:名義貸しを前提に締結された契約(株主間契約、オプション契約、裏契約など)は、公序良俗違反や強行法規違反として無効と判断される可能性があります。その場合、外国人側が「実質的な所有者」であることを主張しても、裁判所に認められないリスクがあります。
- 投資資金の回収困難:タイ人名義で保有している株式や不動産について、名義人との関係が悪化した場合、外国人側が法的に権利を主張しにくい構造になっています。名義人が一方的に売却したり、担保に入れたりしても、外国人側がそれを止められないケースも想定されます。
- M&A・EXITの障害:将来的に事業売却や上場を目指す場合、名義貸し構造があるとデューデリジェンスで問題視され、取引が破談になったり、評価額が大きく下がったりするリスクがあります。
つまり、名義貸しは「規制を回避して早くビジネスを始めるための近道」のように見えて、実際には投資回収や事業の出口戦略を大きく制約する「長期的な地雷」となりがちです。
個人レベルのリスク:ビザ・労働許可・信用への影響
名義貸しに関与した外国人個人には、次のような追加リスクも考えられます。
- ビザ・労働許可の取り消し:刑事事件化した場合、就労ビザや労働許可証の取り消し、不許可につながる可能性があります。
- ブラックリスト入り:重大な違反と判断された場合、タイへの再入国が制限されるリスクも指摘されています。
- 日本側でのコンプライアンス問題:上場企業や金融機関など、日本側のコンプライアンス基準が厳しい組織に所属している場合、海外での違法行為がキャリアに影響する可能性も無視できません。
「タイではよくあること」として軽く考えるのではなく、日本側のリスクも含めて総合的に判断する必要があります。
外国人名義貸しが行われる主な業種と地域

名義貸しが発生しやすい業種の特徴
名義貸しは理論上どの業種でも起こりえますが、外部の業界記事や報道を総合すると、特に次のような業種でリスクが高いと指摘されています。
- 観光・サービス業:ホテル、ゲストハウス、レストラン、バー、スパ、ダイビングショップなど。観光客相手のビジネスは現金収入が多く、外国人オーナーが現場を仕切るケースが多いため、名義貸し構造が生まれやすいとされます。
- 不動産開発・仲介:コンドミニアム開発、ヴィラ開発、土地分譲、不動産仲介など。土地所有に制限がある中で、タイ人名義を使ったスキームが持ち込まれやすい領域です。
- 小売・EC・物流:外国人が実質的に運営する小売店やオンラインショップ、配送サービスなども、規制業種との関係で名義貸しが問題になるケースがあります。
- 専門サービス:コンサルティング、マーケティング、ITサービスなど、一部のサービス業は外国人事業法の規制リストに含まれており、名義貸しを使って参入しようとする動きが指摘されています。
共通するのは、「外国人にとって参入ニーズが高いが、外国人事業法や土地規制の制約がある」領域である点です。
地域別の傾向:観光地・国境地域・大都市圏
名義貸しが問題になりやすい地域としては、報道や専門家の指摘から、次のようなエリアが挙げられます。
- 南部リゾートエリア:プーケット、サムイ島、パンガン島、クラビなど。リゾート開発や観光サービス業が集中しており、外国人オーナー主導のビジネスが多い地域です。
- 東部経済回廊(EEC)周辺:チョンブリ、ラヨーンなど。工業団地や物流拠点が集積しており、製造業・物流・不動産開発などで複雑な持分構造が組まれるケースがあります。
- バンコク首都圏:サービス業、IT、スタートアップ、不動産など、多様な業種で名義貸しリスクが潜在的に存在するとみられます。
- 国境地域:周辺国との越境ビジネスや物流が活発な地域では、外国人がタイ人名義を利用して事業を行うケースが指摘されています。
ただし、名義貸しは特定の地域だけの問題ではなく、タイ全土で起こりうる構造的な課題です。観光地での摘発が目立つのは、違法建築や土地不法占拠とセットで表面化しやすいことも一因と考えられます。
なぜ名義貸しが選ばれてしまうのか
名義貸しが後を絶たない背景には、次のような要因があると考えられます。
- 外資規制の複雑さ:外国人事業法の規制リストや例外規定、BOI恩典、外国人事業ライセンスなどの制度は複雑で、専門家のサポートなしに理解するのは容易ではありません。その結果、「とりあえずタイ人名義で」という安易な選択に流れがちです。
- 短期的なコスト・時間の節約志向:正規のライセンス取得やBOI申請には時間とコストがかかります。一方、名義貸しスキームは初期費用が安く、手続きも早いように見えるため、短期的な視点では魅力的に映ります。
- 「慣行」としての誤解:一部のブローカーや非専門家が「タイではみんなこうしている」「昔からのやり方だ」と説明し、リスクを軽視させるケースがあります。実際には、当局の姿勢や社会のコンプライアンス意識は年々変化しており、過去の慣行がそのまま通用するとは限りません。
日本人としては、「現地の慣行」や「先輩駐在員の経験談」に頼りすぎず、最新の法令と実務運用を前提に判断することが求められます。
名義貸しに関する過去の事例と統計データ
過去の判例・摘発事例から見えるパターン
タイの裁判例や過去の摘発事例を扱った外部の法律解説では、名義貸しが問題となったケースとして、次のようなパターンが紹介されています。
- タイ人株主が実際には出資しておらず、外国人から資金を借りて形式的に株式を保有していたと認定された事案
- 株主間契約やオプション契約により、タイ人株主の議決権が実質的に制限されていたと判断された事案
- 会社の利益がほぼ全額、外国人側に送金されていたことから、実質的な所有者が外国人と認定された事案
これらの事例では、裁判所が「形式より実質」を重視し、名義貸し構造を否定したうえで、外国人事業法違反を認定したと解説されています。2004年の最高裁判決(Supreme Court Decision No.2975/2547)など、いくつかの裁判例でこの「形式より実質」の考え方が示されたと法律事務所等の解説で紹介されています。日本企業や個人投資家にとっては、「契約でうまくコントロールすれば安全」という発想が通用しないことを示すものといえます。
統計データの限界と読み方
名義貸しに関する統計データは、タイ国立統計局や商務省などの公式統計では必ずしも詳細に公表されていません。外部メディアの報道では、商務省事業開発局が「名義貸しリスクの高い業種」の会社登録件数や調査件数を発表したとされるケースもありますが、これらの数字は調査対象や定義が限定されている可能性があります。
そのため、個別の数値をもって「名義貸しは減少している/増加している」と断定するのは慎重であるべきです。ただし、次のような傾向は、複数の情報源から示唆されています。
- 高リスク業種における新規会社登録件数が、規制強化後に大きく減少している
- 観光地や国境地域での名義貸し摘発件数が増加している
- 商務省や警察が、名義貸し対策を重点政策として位置づけている
統計の限界を踏まえつつも、「名義貸しに対する当局の目が厳しくなっている」という方向性自体は、かなり明確になってきているといえます。
日本企業・日本人投資家への示唆
過去の事例や統計から、日本企業・日本人投資家が学ぶべきポイントは次の通りです。
- 「少数だから大丈夫」は通用しない:摘発事例を見ると、規模の大小にかかわらず、名義貸し構造があれば対象になりうることが分かります。
- 「現地パートナー任せ」は危険:タイ人パートナーが名義貸しスキームを主導し、日本側が深く関与していない場合でも、日本側が「実質的な支配者」とみなされるリスクがあります。
- 早期の構造是正が重要:既に名義貸しに近い構造を持つ場合でも、規制強化が本格化する前に、BOI恩典の取得や外国人事業ライセンスの取得など、合法的な枠組みに移行することでリスクを下げられる可能性があります。
今後の見通しとリスク管理のポイント
今後の規制・取り締まりの方向性
外部の業界レポートや専門家コメントを総合すると、今後の名義貸し規制・取り締まりについて、次のような方向性が予想されています。
- 会社登記段階でのスクリーニング強化:投資確認書の義務化や、高リスク業種の重点審査は今後も続き、場合によっては対象業種の拡大や要件の厳格化が行われる可能性があります。
- データ連携による実態把握:会社登記、税務、土地登記、出入国記録などのデータを連携し、名義貸しの疑いがある構造を自動的に抽出する仕組みが強化されるとみられます。
- 「クリーンアップ後の自由化」という流れ:一部の専門家は、タイ政府が違法な名義貸し構造を一掃したうえで、特定分野の外資規制を緩和する「クリーンアップ後の自由化」路線を志向していると指摘しています。
いずれにせよ、「今はまだ大丈夫だから様子を見る」というスタンスは、時間が経つほどリスクが高まる方向に働くと考えた方がよいでしょう。
日本企業・投資家が取るべきリスク管理の基本
タイでビジネスや投資を行う日本人が、名義貸しリスクを管理するうえでの基本的なポイントは次の通りです。
- 名義貸しスキームを前提にしない:初期段階から「名義貸しは選択肢に入れない」と決めておくことが重要です。ブローカーや一部のサービス業者から名義貸しを前提とした提案を受けた場合は、その時点で距離を置くべきです。
- 外国人事業法と関連規制を正しく理解する:自社の事業内容が外国人事業法のどのリストに該当するのか、BOI恩典や外国人事業ライセンスの取得可能性はあるのか、といった点を、JETRO情報や専門家の助言をもとに整理しておく必要があります。
- 資本構成とガバナンスを「実態に即して」設計する:タイ人株主の出資は実態を伴うものでなければなりません。議決権や取締役構成も、形式だけでなく実際の経営参加を反映したものにすることが求められます。
- 契約と実務の整合性を保つ:株主間契約やオプション契約で、タイ人株主の権利を過度に制限したり、実態と乖離した取り決めを行ったりすると、名義貸しと判断されるリスクが高まります。契約内容と日々の運営実態が整合しているか、定期的に点検することが重要です。
既に名義貸しリスクを抱えている場合の対応
すでにタイで事業を行っており、「よく考えると名義貸しに近い構造かもしれない」と感じている日本企業・個人も少なくありません。その場合の現実的な対応としては、次のようなステップが考えられます。
- 現状の法적リスクの棚卸し:資本構成、資金の流れ、議決権配分、契約内容、実際の経営権限などを整理し、どの点が外国人事業法や関連法令と齟齬をきたしている可能性があるかを洗い出します。
- 専門家によるセカンドオピニオン:現地の法律事務所や会計事務所など、複数の専門家から意見を聞き、リスク評価と是正オプションを比較検討します。
- 合法的な枠組みへの移行計画:BOI恩典の取得、外国人事業ライセンスの申請、事業内容の見直しなど、合法的な枠組みに移行するためのロードマップを策定します。
- 当局とのコミュニケーション戦略:場合によっては、自主的な構造是正を進めていることを当局に説明し、摘発リスクを下げるアプローチも検討されます。ただし、この点はケースバイケースであり、専門家の助言が不可欠です。
まとめ:短期の「抜け道」より、長期の「持続可能性」を優先する
タイの外国人名義貸しは、かつては「グレーゾーンの慣行」として見過ごされてきた側面もありますが、2020年代半ばに入り、政府の姿勢は明確に変わりつつあります。会社登記段階での投資確認書義務化、観光地での一斉摘発、複数機関の連携による取り締まり強化など、名義貸し構造を前提としたビジネスは、もはや持続可能とは言い難い状況です。
日本企業や日本人投資家にとって重要なのは、短期的なコストやスピードだけで判断せず、
- 外国人事業法と関連規制を正しく理解すること
- 名義貸しスキームを前提にしないこと
- 資本構成・ガバナンス・契約を実態に即して設計すること
- 既存構造にリスクがあれば、早期に是正の道筋を検討すること
といった基本を押さえることです。
タイは依然として魅力的な投資先であり、BOI恩典や外国人事業ライセンスなど、合法的にビジネスを展開するための制度も整備されています。名義貸しという「近道」に頼るのではなく、制度を正しく理解し、長期的に持続可能な形で事業を構築することが、日本企業にとっての最善のリスク管理といえるでしょう。


