2026年のベトナム進出では、「まず投資登録証明書、その後に会社設立」という従来の説明だけでは不十分です。投資法143/2025/QH15が2026年3月1日に施行され、外国投資家は市場アクセス条件を満たす場合、投資登録証明書の取得・変更前でも経済組織を設立できる仕組みが導入されました。
ただし、会社を登記できることと、予定する事業を開始できることは別です。外資参入条件、投資方針承認、土地・工場、環境、消防、建設、業種別ライセンス、資本口座、税務、労務までを一つの工程として設計する必要があります。この記事では、進出形態の選び方、2026年の制度変更、会社設立と投資手続き、失敗しやすい点を実務順に整理します。
先に結論
- 最初に確認するのは会社形態ではなく、予定事業の外資市場アクセス条件です。
- 2025年投資法は、条件を満たす外国投資家による企業先行設立を認めました。
- 製造拠点では、法人登記と工場稼働に必要な許認可を別工程で管理します。
- 資本金は登記上の数字ではなく、稼働までの資金需要と送金計画から逆算します。
- 所在地、事業目的、投資家、資本、許認可を後から変えるほど、追加手続きと遅延が増えます。
2026年に変わったベトナム投資制度
投資法143/2025/QH15は2025年12月11日に成立し、2026年3月1日に施行されました。一部の事業条件に関する規定は2026年7月1日から適用されています。新法は、条件付き投資・事業分野を198分野へ整理し、事前審査から事後管理へ移す方向を強めました。
外国投資家にとって重要なのは、市場アクセス条件を満たす場合、投資プロジェクトの登録前でも経済組織を設立できるようになった点です。従来型の「投資案件を作り、投資登録証明書を取得し、その後に企業登録」という流れ以外の選択肢が生まれました。
ただし、すべての案件で投資登録が不要になったわけではありません。土地利用、大規模案件、特定業種、投資方針承認が必要な案件、外資市場アクセス条件がある案件では、引き続き個別確認が必要です。会社設立を先行しても、工場建設や営業開始に必要な手続きは残ります。
最初に確認する「市場アクセス条件」
ベトナム進出の最初の判断は、予定する事業を外国投資家がどの条件で行えるかです。事業内容を日本の定款や業界名のまま説明せず、ベトナムで実際に行う活動へ分解します。
- 製造する製品と工程
- 輸入、輸出、卸売、小売の有無
- 保守、修理、コンサルティングなどのサービス
- 倉庫、物流、輸送、通関への関与
- 顧客データ、クラウド、通信、広告などの取扱い
- 土地、建物、住宅、不動産への関与
一つの会社で複数活動を行う場合、最も厳しい条件が全体工程を遅らせることがあります。製造は可能でも、製品の国内小売、物流、広告、教育、旅行などに追加条件が付くケースがあります。

主な進出形態
| 形態 | 向くケース | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 外資100%の有限責任会社 | 経営と知財を自社で管理したい | 市場アクセス、資本、許認可を自社で整備 |
| 合弁会社 | 現地販路、許認可、資産、人材を補完したい | 議決権、拒否権、追加出資、出口設計 |
| 既存会社への出資・買収 | 顧客、許認可、工場を早く取得したい | 簿外債務、土地、税務、労務、許認可のDD |
| BCC(事業協力契約) | 法人を共同設立せず事業を分担したい | 責任、収益配分、会計、運営委員会、紛争 |
| 駐在員事務所 | 市場調査や連絡業務から始めたい | 原則として収益事業を行えない |
外資100%会社
意思決定、品質、知財、顧客契約を自社で管理しやすい形態です。一方、土地・工場、採用、許認可、政府対応を自社体制で構築する必要があります。製造業では、所在地と工程の許認可適合を会社設立前に確認してください。
合弁会社
現地パートナーの販路、資産、人材、ライセンスを活用できる可能性があります。ただし、出資比率だけでは経営権は決まりません。取締役・法定代表者の選任、予算、借入、関連当事者取引、追加出資、株式譲渡、競業、デッドロックを契約で決めます。
出資・買収
稼働中の会社を取得すれば、顧客、従業員、工場、許認可を引き継げる場合があります。しかし、許認可が株主変更後も有効か、土地利用目的が合っているか、税・社会保険・労働紛争がないかを確認しなければなりません。安さより、取得後に合法的に操業できるかを優先します。
会社設立から操業までの全体像
案件によって順序は変わりますが、製造業の進出は次の7本を並行管理すると抜けが減ります。
- 市場アクセス:禁止・条件付き分野、外資比率、パートナー要件を確認
- 投資手続き:投資方針承認、投資登録、特別投資手続きの要否を確認
- 企業登録:会社名、所在地、代表者、資本、事業内容を登録
- 土地・建物:工業団地、賃貸工場、土地権利、建設条件を確認
- 操業許認可:環境、建設、消防、製品・業種ライセンスを取得
- 資金・税務:資本口座、送金、会計、請求書、税務登録を整備
- 人・労務:雇用契約、就業規則、保険、外国人就労を整備
工業団地の比較方法はベトナム工業団地の選び方、採用・労務はベトナムの最低賃金・労務管理で詳しく解説します。
投資方針承認が必要か確認する
新投資法は、投資方針承認が必要な案件を20グループに整理しました。森林・水田の大規模利用、移転、国防・安全保障、海域利用、原子力、カジノ、通信網、石油・ガス、住宅・都市、ゴルフ、工業団地、大型港湾・空港など、社会・土地・インフラへの影響が大きい案件が含まれます。
通常の賃貸工場への入居と、工業団地そのものの開発では扱いが異なります。プロジェクトの規模、土地、技術、所在地を提示し、どの承認主体と手続きが該当するかを確認します。
企業登録と投資登録をどう組み合わせるか
従来は、投資方針承認が不要な外資案件では、投資登録証明書(IRC)を取得し、その後に企業登録証明書(ERC)を取得する流れが一般的でした。Invest Vietnamの案内では、有効な投資登録申請を受理してから15日、企業登録は有効な申請を受理してから3営業日という法定処理期間が示されています。
実際の開業期間は、書類の公証・領事認証、所在地、事業目的、説明追加、許認可、銀行口座、工場工事で長くなります。法定処理日数を、そのままプロジェクト全体の納期にしないでください。
2026年の企業先行設立を使う場合も、次の点を確認します。
- 予定事業が外国投資家の市場アクセス条件を満たすか
- 企業設立後に必要な投資登録・変更手続き
- 資本口座と送金の根拠
- 土地・工場契約をどの主体が締結するか
- 許認可申請者と費用負担の主体
特別投資手続きの「グリーンチャネル」
新投資法は、工業団地、輸出加工区、ハイテク区、集中デジタル技術区、自由貿易区、国際金融センター、経済区内の機能区などで、一定の案件が特別投資手続きを選択できる範囲を広げました。
この仕組みでは、投資方針承認、技術評価、環境影響評価報告、詳細計画、建設許可、消防手続きの一部について、事前承認を減らし、投資家の適合宣誓と事後管理へ移す考え方が示されています。
ただし、適用対象、除外案件、提出資料、検査、違反時の責任は案件ごとに確認が必要です。「許可が不要」と一括して解釈せず、どの手続きがどの根拠で置き換わるかを一覧にします。

資本金と投資総額をどう決めるか
投資資本には、投資家の拠出資本と借入などが含まれます。定款資本は企業登録上の資本で、投資案件の総投資額と同じとは限りません。資本金を小さく見せることより、稼働まで資金ショートしない計画が重要です。
資金需要に含める項目
- 会社設立、許認可、専門家費用
- 土地・工場の保証金、賃料、建設・改修
- 設備、輸送、据付、試運転、予備部品
- 採用、研修、給与、社会保険、送迎
- 原材料、在庫、売掛金、輸入税・付加価値税
- 遅延時の追加家賃と運転資金
資本拠出の期限、通貨、送金口座、親会社借入、外貨借入登録を会社設立前に設計します。Invest Vietnamは、1年超の外国借入について中央銀行への登録が必要になる旨を案内しています。実際の契約前に現行の外為規則を確認してください。
所在地を先に確定しすぎない
所在地は企業登録、投資案件、税務、工場許認可へ影響します。候補地が決まる前に長期契約すると、業種不適合や許認可遅延が判明しても撤退しにくくなります。
賃貸借契約には、投資・企業登録、環境、消防、建設などの許認可が得られない場合の解除、保証金返還、引渡し、工事負担を入れます。登記上の本店と工場が異なる場合は、支店・事業所登録、税務、請求書、労務の扱いも確認します。
会社設立後に必要な手続き
ERCの取得はスタート地点です。会社を実際に動かすため、次の作業を工程表に入れます。
- 会社印、電子署名、電子請求書
- 資本口座、運転口座、送金権限
- 会計方針、税務登録、移転価格文書
- 定款資本の拠出と証憑保存
- 環境、消防、建設、製品・業種別許認可
- 雇用契約、就業規則、給与、社会保険
- 外国人の就労許可・免除確認、在留手続き
- 輸出入、通関、原産地、製品表示
進出スケジュールの作り方
「会社設立」「工場」「設備」「人材」の4本を別々の担当者が管理すると、前提がずれます。稼働開始日から逆算し、依存関係を一つの表で管理します。
| 工程 | 完了条件 | 主な依存関係 |
|---|---|---|
| 事業・市場アクセス確認 | 外資条件と必要許認可を特定 | 製品、販売方法、工程 |
| 立地選定 | 業種・インフラ・契約条件を確認 | 電力、水、排水、物流 |
| 投資・企業手続き | 必要証明書と会社主体を確立 | 投資家資料、所在地、資本 |
| 設計・許認可・工事 | 合法的に設備を据付・操業可能 | 環境、消防、建設、機械仕様 |
| 資金・会計 | 送金、支払、請求、申告が可能 | 口座、資本、電子署名 |
| 採用・試運転 | 人員と品質条件を満たす | 工場引渡し、設備、就業規則 |
申請期間には、翻訳、公証、領事認証、当局の追加説明、修正、祝日、担当変更のバッファを入れます。許認可の法定日数だけで量産開始日を約束しないことが重要です。
合弁・買収で確認する契約項目
- 取締役、法定代表者、印章、銀行口座の権限
- 事業計画、予算、設備投資、借入の承認
- 追加出資、希薄化、債務保証
- 技術、商標、顧客情報、データの帰属
- 関連当事者取引と価格決定
- 競業避止、勧誘禁止、秘密保持
- 株式譲渡、先買権、共同売却、強制売却
- デッドロック、違反、解除、紛争解決
「信頼できる相手だから」ではなく、意見が一致しないときの手続きを先に決めます。ベトナム語定款、投資契約、株主間契約の優先関係も確認してください。
進出で起きやすい失敗
事業目的を広く書けば何でもできると考える
登録された事業目的が広くても、外資条件や業種別ライセンスを満たさなければ営業できません。実際の収益活動ごとに許認可を確認します。
会社設立の速さだけで専門家を選ぶ
ERCを早く取得しても、所在地、資本、事業目的が操業計画と合わなければ変更が必要です。成果物を「会社設立」ではなく「予定事業を合法的に開始できる状態」と定義します。
資本金を最低額だけで決める
一般事業に一律の最低資本金がない場合でも、事業規模に対して不自然な資本は、投資計画の実現性や銀行・取引先の判断へ影響します。必要運転資金から逆算します。
土地・工場契約を許認可より先に確定する
予定工程が入居できない、排水が受け入れられない、電力が間に合わない場合があります。許認可不成立を停止条件にし、長期契約の前に技術デューデリジェンスを行います。
日本本社と現地法人の契約を後回しにする
技術支援、ロイヤルティ、出向者、立替、親子ローン、部材価格は、税務・外為・移転価格へ影響します。送金が始まる前に契約と証憑を整備します。
進出判断の最終チェックリスト
- 予定する収益活動をすべて分解したか
- 各活動の外資市場アクセス条件を確認したか
- 企業先行設立、IRC先行、買収の3案を比較したか
- 投資方針承認と特別投資手続きの対象を確認したか
- 所在地で予定工程を合法的に稼働できるか
- 資本金、借入、送金、運転資金が工程と一致するか
- 操業許認可を担当者・期限・根拠法令で管理しているか
- 採用、社会保険、外国人就労を量産前に準備したか
- 撤退、譲渡、清算の条件も確認したか
よくある質問
2026年は外国企業がIRCなしで会社を作れますか?
新投資法は、市場アクセス条件を満たす外国投資家が投資登録証明書の取得・変更前に経済組織を設立できる仕組みを導入しました。ただし、その後の投資・操業手続きが不要になるわけではなく、案件ごとの適用確認が必要です。
外資100%で進出できない業種はありますか?
あります。禁止分野、条件付き分野、外国投資家への市場アクセス条件、国際約束、個別法令で判断します。業種名だけでなく、実際に行う販売・サービス・製造活動を分解して確認してください。
ベトナム会社設立には何日かかりますか?
法定の処理期間だけなら短い手続きもありますが、書類準備、認証、所在地、追加説明、銀行、税務、操業許認可を含む全体期間は案件で異なります。量産開始から逆算した工程表が必要です。
工業団地へ入れば許認可は簡単になりますか?
窓口やインフラが整い、特別投資手続きの対象になる可能性はあります。ただし、予定工程の環境・消防・建設・業種条件を満たす必要があります。工業団地ごとの受入条件も確認してください。
駐在員事務所で売上を計上できますか?
駐在員事務所は通常、市場調査や連絡などに機能が限定され、収益事業を行う主体ではありません。販売・サービス提供を行う場合は、法人・支店など適切な形態を検討します。
まとめ
2026年のベトナム進出では、新投資法によって企業設立と投資登録の順序に選択肢が増えました。しかし、進出の成否を決めるのは登記の速さではなく、市場アクセス、投資、所在地、資金、操業許認可、労務が一つの計画として整合しているかです。
まず予定する収益活動を分解し、外資条件を確認します。その後、外資100%会社、合弁、買収、BCCなどを比較し、工場稼働までの全工程を設計してください。制度変更が続くため、申請直前には最新の法令と所管当局の運用を再確認する必要があります。
関連ニュース・解説
参考・出典
- ベトナム国会:投資法143/2025/QH15
- Invest Vietnam:2025年投資法の2026年施行
- Invest Vietnam:外資企業設立手続き
- Invest Vietnam:企業登録証明書
- Invest Vietnam:条件付き投資・事業分野
- Invest Vietnam:投資資本と定款資本
本記事は2026年7月時点の公開情報を基にした一般的な解説であり、法的・税務上の助言ではありません。適用法令、国際約束、当局運用は事業内容と所在地で異なるため、申請・契約前に所管当局と専門家へ確認してください。


