2026年のベトナムでは、地域別最低賃金が引き上げられました。しかし、工場や事業所の人件費を最低賃金だけで見積もると、採用できない、離職が増える、残業と手当で予算を超えるという問題が起きます。実際の労務費には、基本給、職務・技能・交替勤務手当、残業、賞与、食事、送迎、社会保険、採用・教育、離職補充まで含まれます。
また、2025年7月施行の社会保険法41/2024/QH15、2025年8月施行の外国人労働者に関する政令219/2025/ND-CP、2026年1月施行の最低賃金政令293/2025/ND-CPにより、2026年の実務は古い解説と異なる部分があります。この記事では、地域別最低賃金、採用給与の決め方、雇用契約、試用、労働時間、社会保険、外国人就労、工場の定着策を整理します。
先に結論
- 2026年の月額最低賃金は、地域Iが531万VND、IIが473万VND、IIIが414万VND、IVが370万VNDです。
- 最低賃金は採用相場ではありません。職種・地域・交替勤務・競合工場で実勢給与は変わります。
- 人件費は基本給ではなく、残業、手当、保険、送迎、採用・教育、離職まで含めて計算します。
- 試用、雇用契約、就業規則、勤怠、給与、保険を入社前から一つのデータで管理します。
- 工業団地選定時に採用圏と送迎ルートを確認すると、開業後の人員不足を減らせます。
2026年のベトナム地域別最低賃金
政令293/2025/ND-CPは、2026年1月1日から労働契約で働く労働者の月額・時間額最低賃金を次のように定めています。

| 地域 | 月額最低賃金 | 時間額最低賃金 |
|---|---|---|
| 地域I | 5,310,000 VND | 25,500 VND |
| 地域II | 4,730,000 VND | 22,700 VND |
| 地域III | 4,140,000 VND | 20,000 VND |
| 地域IV | 3,700,000 VND | 17,800 VND |
どの地域を適用するかは、原則として使用者が活動する所在地で決まります。支店・事業所が異なる地域で活動する場合は各所在地の水準を使います。工業団地、輸出加工区、ハイテク区、集中デジタル技術区が複数の賃金地域にまたがる場合は、最も高い水準を適用します。
2025年の行政区画再編により新設された行政区が複数の旧地域から構成される場合、政府が新たに定めるまで高い水準を使う扱いがあります。住所表記だけで判断せず、政令の付表と最新の所管案内を確認してください。
最低賃金と採用給与は違う
最低賃金は法的な下限であり、必要人数を採用できる金額ではありません。工業団地が集中する地域では、周辺企業が同じオペレーター、品質、保全、通訳、管理職を採用するため、実勢給与は最低賃金を上回ります。
採用給与を決める5つの情報
- 職種別相場:一般作業、技能職、品質、保全、物流、管理職を分けます。
- 通勤圏:30分、60分、90分圏の人口と競合工場を確認します。
- 勤務条件:交替、夜勤、温度、騒音、立ち作業、危険物を反映します。
- 総受取額:基本給だけでなく、手当、食事、送迎、賞与を比較します。
- 定着実績:入社率、3か月定着率、離職理由を追跡します。
候補地の採用力は、ベトナム工業団地の選び方で、電力・物流・地盤と同じ評価表へ入れる必要があります。
人件費は「1人当たり総コスト」で計算する
予算では、基本給に一定率を掛けるだけでなく、職種と勤務形態ごとに積み上げます。
月間総労務費 = 基本給 + 職務・技能・交替等の手当 + 残業・夜勤 + 賞与引当 + 会社負担保険 + 食事・送迎・制服 + 採用・教育費 + 離職補充費

| 費用 | 見落としやすい点 | 管理指標 |
|---|---|---|
| 基本給・手当 | 同職種の競合工場、交替勤務、技能差 | 職種別中央値、昇給率 |
| 残業・夜勤 | 繁忙期、欠員、法定割増、食事・送迎 | 1人当たり残業、部署別上限 |
| 保険・福利厚生 | 算定基礎、外国人、契約期間、対象手当 | 給与との突合、未加入件数 |
| 採用・教育 | 紹介料、入社辞退、研修中の生産ロス | 採用単価、独り立ち日数 |
| 離職 | 欠員残業、再採用、品質・安全への影響 | 3か月定着率、離職理由 |
労働時間と残業
労働法45/2019/QH14では、通常の労働時間は原則として1日8時間、週48時間を超えない範囲です。週単位で設定する場合などの条件があり、政府は週40時間を奨励しています。
残業は労働者の同意、日・月・年の上限、対象業種、割増賃金を確認します。一般には月40時間、年200時間が基本的な上限で、一定の業種・事情では年300時間まで認められる場合があります。夜勤と休日が重なる場合は計算が複雑になるため、勤怠システムと給与計算を同じルールで設定してください。
残業に依存した量産計画の問題
- 欠員を残業で埋めると、さらに離職が増える
- 上限到達後に生産能力が急低下する
- 疲労により品質不良と労災リスクが上がる
- 割増賃金と送迎・食事の追加費用が発生する
量産能力は「定員が揃い、通常時間で生産した場合」を基準にし、残業は需要変動の吸収へ限定します。
試用期間と試用中の賃金
労働法では、職務に応じて試用期間の上限が異なります。企業管理者は最長180日、高度な専門・技術職は60日、技能・中級職などは30日、その他の仕事は6営業日が目安です。同じ仕事について複数回の試用を繰り返す運用は避けます。
試用中の賃金は、その仕事の正式賃金の少なくとも85%とされています。試用終了時には結果を通知し、採用する場合は適切な労働契約へ移行します。
試用を単なる低賃金期間にせず、職務ごとの評価項目を決めます。安全、品質、標準作業、技能、勤怠を評価し、指導者と判定者を分けると恣意的な判断を減らせます。
雇用契約で確認する項目
雇用契約には、職務、勤務地、期間、賃金、支払日、勤務時間、休憩、保険、保護具、教育などを適切に記載します。実際の働き方と契約書が異なると、紛争時に会社の運用を説明できません。
- 職位名ではなく、職務内容と配置転換の範囲
- 基本給、各手当、賞与の条件
- 勤務地と出張・異動
- 交替勤務、夜勤、休日
- 機密情報、知的財産、会社資産
- 安全衛生、保護具、健康診断
- 契約終了、引継ぎ、返却物
有期契約を繰り返す場合の制限、契約変更、配置転換、懲戒、解雇には法定手続きがあります。日本本社の雛形を翻訳するだけではなく、ベトナム法と現場運用へ合わせます。
就業規則と懲戒
10人以上の労働者を使用する企業では、書面の就業規則を整備し、所定の登録手続きを確認します。勤務時間、職場秩序、安全、ハラスメント防止、資産保護、秘密情報、違反と懲戒責任などを具体化します。
就業規則に書けば自由に懲戒できるわけではありません。証拠、通知、出席、議事、期限などの手続きが重要です。管理者がその場で罰金を科す、給与を恣意的に減らす、退職を強要するといった運用は避けてください。
社会保険の2026年実務
社会保険法41/2024/QH15は2025年7月1日に施行され、加入対象を拡大しました。労働契約の名称ではなく、実態として賃金を受けて管理・監督下で働く場合も対象判断が必要です。
同法上の強制社会保険では、対象労働者は算定基礎となる賃金の8%を退職・遺族基金へ拠出し、使用者側は疾病・出産基金3%と退職・遺族基金14%を負担する構成です。これとは別に、健康保険、失業保険、労働災害・職業病に関する負担があります。
国籍、契約期間、社内異動、退職年齢、国際協定などで対象が変わるため、給与計算時は「従業員区分」「契約」「加入制度」「算定基礎」を月ごとに突合します。手当名を変えるだけで保険算定から除外できるとは限りません。
外国人労働者の就労
外国人労働者については、政令219/2025/ND-CPが2025年8月7日から施行されています。就労形態、専門家・管理者などの要件、就労許可、免除確認、申請時期、勤務地を確認します。
就労許可は雇用契約や在留手続きと連動します。役職名だけを管理者・専門家に合わせるのではなく、学歴、経験、任命、職務、派遣関係を証明できる資料が必要です。複数拠点で働く場合は、許可・届出上の勤務地を確認してください。
社会保険法では、ベトナムの使用者と12か月以上の有期労働契約を結ぶ外国人も、一定の例外を除いて強制社会保険の対象になります。出向、社内異動、退職年齢、国際協定などの例外を個別に確認します。
採用で確認すべき地域差
同じ最低賃金地域でも、採用難易度は工業団地と職種で異なります。新工場の採用計画では、現地求人情報、紹介会社、職業学校、周辺企業への聞き取りを組み合わせます。
| 確認項目 | 質問 | 判断への使い方 |
|---|---|---|
| 採用母集団 | 60分圏に必要職種が何人いるか | 募集人数と採用期間を決める |
| 競合 | 同職種を採る工場の給与・手当は何か | 総報酬と差別化を決める |
| 通勤 | 送迎ルート、渋滞、交替時刻は合うか | 送迎費と定着率を見積もる |
| 技能 | 職業学校と企業内教育で補えるか | 即戦力と育成採用を分ける |
| 季節変動 | 旧正月前後や農繁期に離職が増えるか | 採用・在庫計画へ反映する |
離職を減らす実務
入社前の条件説明を統一する
求人票、面接、オファー、雇用契約で、給与・手当・交替・残業・送迎の説明が違うと早期離職につながります。人事と現場で一つの条件表を使います。
初日から30日までを設計する
初日は書類手続きだけで終わらせず、安全、相談先、給与明細、勤怠、送迎、食事を説明します。7日、14日、30日で面談し、退職理由になる問題を早期に見つけます。
班長を育成する
離職理由は給与だけではありません。班長の指示、叱責、シフト、評価の不公平が影響します。班長へ労務・安全・指導方法を教育し、部署別離職率を管理します。
昇給と技能を接続する
勤続年数だけでなく、習得技能、品質、安全、改善への貢献を賃金テーブルへ反映します。評価基準を公開し、誰が判定しても同じ結果になるよう証拠を残します。
毎月確認する労務ダッシュボード
- 必要人員、在籍、欠員、採用予定
- 応募、面接、内定、入社、辞退
- 7日・30日・90日の定着率
- 部署・上司・職種別の離職率と理由
- 1人当たり残業、上限接近者、休日勤務
- 欠勤、遅刻、有給取得
- 労災、ヒヤリハット、品質不良
- 給与・保険の差異、修正件数
- 採用単価、教育期間、独り立ち日数
全社平均だけでは問題部署が埋もれます。部署、職種、勤続期間、上司、シフトで分け、原因と対策を同じ月に決めます。
労務管理で起きやすい失敗
最低賃金に少し足せば採用できると考える
競合工場の総報酬、送迎、食事、賞与、勤務環境を見なければ採用相場は分かりません。最低賃金は法令確認に使い、採用給与は市場調査で決めます。
基本給を低くし手当を増やす
手当の性質によって保険算定や残業計算への影響が変わります。名称だけで判断せず、支給条件と法的性質を確認します。
残業で欠員を埋め続ける
残業増加は疲労、離職、品質不良を招き、さらに欠員を増やします。採用リードタイムと教育期間を生産計画へ組み込みます。
日本の就業規則を翻訳する
日本法を前提にした懲戒、休暇、解雇、固定残業などは、そのまま使えません。ベトナム法と現場運用に合わせ、管理者へ手続きを教育します。
外国人の就労許可を入国後に考える
学歴・経験証明、公証・認証、職務、勤務地の整合に時間がかかります。工場立上げメンバーは渡航計画と許可工程を一緒に作ります。
新規進出時の90日準備
- 人員計画:量産日から逆算し、職種別の採用・教育日を設定
- 給与調査:最低賃金、競合、総報酬、送迎を比較
- 規程整備:雇用契約、就業規則、給与、評価、安全を整備
- システム設定:勤怠、残業、給与、保険をテスト
- 管理者教育:試用、指導、懲戒、ハラスメント、安全を教育
- 定着運用:初日、7日、30日、90日の面談を設定
会社設立、外資条件、投資・操業手続きはベトナム進出・会社設立の実務で整理しています。
よくある質問
2026年のベトナム最低賃金はいくらですか?
月額は地域Iが531万VND、IIが473万VND、IIIが414万VND、IVが370万VNDです。時間額はそれぞれ25,500、22,700、20,000、17,800VNDです。
工業団地ではどの最低賃金地域を使いますか?
所在地の賃金地域を使います。工業団地などが複数の賃金地域にまたがる場合は、最も高い水準を適用します。行政再編後の扱いも含め、最新の付表を確認してください。
最低賃金で工場作業員を採用できますか?
法的下限と採用相場は異なります。工業団地、職種、交替勤務、競合工場、送迎、手当で必要な総報酬が変わるため、現地の職種別調査が必要です。
試用期間は何か月ですか?
職務により異なり、企業管理者は最長180日、高度専門職は60日、技能・中級職などは30日、その他は6営業日が目安です。試用賃金は正式賃金の85%以上です。
外国人もベトナムの社会保険へ加入しますか?
ベトナムの使用者と12か月以上の有期労働契約を結ぶ外国人は、一定の例外を除き強制社会保険の対象になります。社内異動、退職年齢、国際協定などで扱いが変わるため個別確認が必要です。
まとめ
2026年の最低賃金引き上げは、人件費計画を見直す入口です。採用と定着を実現するには、最低賃金ではなく職種別の実勢給与、交替勤務、送迎、福利厚生、管理者の質まで比較する必要があります。
会社は、基本給だけでなく残業、保険、採用・教育、離職補充を含む総労務費で予算を作り、雇用契約、就業規則、勤怠、給与、社会保険を一つの運用として管理してください。毎月の指標を部署・職種・勤続期間で分けると、離職と残業の悪循環を早く止められます。
関連ニュース・解説
参考・出典
- ベトナム政府:政令293/2025/ND-CP(2026年最低賃金)
- ベトナム国会:労働法45/2019/QH14
- ベトナム国会:社会保険法41/2024/QH15
- ベトナム社会保険:社会保険法41/2024/QH15全文
- ベトナム政府:政令219/2025/ND-CP(外国人労働者)
本記事は2026年7月時点の公開情報を基にした一般的な解説です。給与、保険、就労許可、契約、懲戒などの適用は従業員と事業所の条件で異なるため、実施前に所管当局と労務・法務専門家へ確認してください。


