ベトナム北部バクニン省は、半導体や無人航空機(UAV)産業を誘致するため、約1,000ヘクタールの工業用地を準備していることを発表しました。これは、高品質で持続可能な外国直接投資(FDI)を優先する同省の新たな戦略の一環であり、VnExpressが報じました。
バクニン省、選別型FDI戦略に転換
バクニン省人民委員会のファム・ホアン・ソン委員長は、4月24日に開催された「FDIコネクト2026」フォーラムで、同省が外国投資誘致の質と持続可能性を最優先する選別型戦略に移行していると述べました。現在、約500ヘクタールのクリーンな工業用地が準備されており、インフラも整備済みのため、大規模なハイテクプロジェクトをすぐに受け入れることが可能です。さらに、今年中には追加で500ヘクタールを確保する計画で、これにより総計1,000ヘクタールの用地が「大企業(ダイバング)」と呼ばれる半導体・UAV分野の投資家を待つことになります。
半導体産業クラスター形成への期待
同省のファム・バン・ティン副委員長は、バクニン省が工業・エレクトロニクス分野で優位性を持っていると説明しました。この地域には、サムスンやアップルといった世界的な企業に部品を供給する多くのサプライヤーが集積しています。アムコアやハナ・マイクロンといった半導体大手が既に拠点を構えており、第4四半期末には省内初のチップ製造工場が稼働する予定です。
バクニン省は、これらの実績を基に、ウェハー製造からパッケージング、テスト、さらには半導体工業を支える化学産業まで、完成された半導体戦略産業クラスターの形成を目指しています。これは、ベトナム政府が近年推進する半導体・DX・GX分野の産業開発政策と人材育成支援(JICA 国別分析ペーパー)とも合致する動きです。
AI・ロボティクス・UAV分野への拡大
半導体分野に加え、バクニン省は人工知能(AI)、ロボティクス、無人航空機(UAV)、航空部品製造といった新技術分野への投資誘致にも意欲を示しています。これは将来的なジアビン国際空港プロジェクトの需要にも対応するもので、高品質なFDI誘致を通じて、ベトナム全体がグローバルサプライチェーンに深く関与することを目指しています。特に、世界的な地政学的・技術的競争の焦点となっている半導体人材の育成政策(次世代型FDIに対応へ)もベトナム政府によって打ち出されており、バクニン省の動きは国策と連携しています。
既存投資家への手厚い支援で信頼を構築
高品質な外国企業を誘致する「秘訣」として、ティン副委員長は「既存の投資家を手厚くケアすること」が最も効果的だと述べました。これにより投資環境への信頼が広がり、新たな投資を呼び込む好循環が生まれると言います。バクニン省は、行政手続きを迅速化する「グリーンストリーム」メカニズムを導入し、重点プロジェクトへのタイムリーな支援を行っています。
バクニン省は、2025年には国内で2番目に多くのFDIを誘致した地域であり、これまでに46の国・地域から3,500以上のプロジェクト、総額490億ドル(約7兆3,500億円)以上の登録資本を集めています。FDIセクターは同省経済の主要な推進力であり、2025年にはGRDP成長率が10%以上、今年の第1四半期には9.8%と大幅な成長に貢献しています。
FDI誘致の課題と国内企業との連携強化
しかし、ベトナム商工会議所(VCCI)のホー・シー・フン委員長は、FDI誘致には課題もあると指摘しています。特に、外国企業と国内企業との連携が限定的であるため、多くの産業で現地調達率が低く、ベトナム企業がバリューチェーンに深く参画できていない現状があります。
在ベトナム韓国企業協会(KoCham)のキム・イン・ウ副会長もこれに同意し、FDI企業と国内企業の連携強化、および国内企業が品質管理、生産、納期、サプライチェーンの能力を向上させることが、より持続可能で競争力のあるサプライチェーンを構築するために不可欠だと強調しました。高技術産業に焦点が当たる中、単なる加工・組み立て能力に依存するだけでは持続的な競争優位性を確保することは難しいと指摘し、生産プロセスの精度向上、品質管理システムの強化、技術標準への対応能力、エンジニアや中級管理職の人材育成をベトナムに推奨しています。
ベトナム政府の戦略的FDI誘致と裾野産業育成
中央政策・戦略委員会のグエン・ドク・ヒエン副委員長は、ベトナムの外国投資協力戦略は、質、効率性、波及効果を重視した選別型FDI誘致であると強調しました。政府はFDIと国内企業間の連携を最大のボトルネックと捉えており、その解消に注力しています。そのため、ベトナムは裾野産業を強力に発展させ、国内企業の能力を向上させるとともに、技術移転を促進するための適切なメカニズムを設計し、ベトナム企業がより深く、実質的にバリューチェーンに参加できるような価値連鎖の形成を目指しています(JICA 国別分析ペーパー、ベトナムの構造改革)。これは、国際協力銀行(JBIC)やJETROも支援するベトナムの裾野産業育成の取り組みとも一致します。
今回のバクニン省の発表は、ベトナム政府が掲げる「選別型FDI誘致」戦略を地方レベルで具体的に推進する動きとして注目されます。従来の労働集約型産業から、半導体、AI、UAVといったハイテク・高付加価値産業へのシフトは、ベトナム経済全体の構造転換を加速させる重要な一歩です。特に、既存のサムスンやアップル関連のサプライチェーンに加え、半導体大手の進出が続くことで、強固な産業クラスター形成への期待が高まります。
在ベトナム日系企業にとっては、この動向は新たなビジネスチャンスと同時に、サプライチェーンにおける国内企業との連携強化の必要性を浮き彫りにしています。ベトナム政府は裾野産業の育成と技術移転を重視しており、日系企業がベトナム企業との協業を通じて、より深くベトナムのバリューチェーンに組み込まれることで、持続的な成長と競争力強化に繋がる可能性があります。単なる生産拠点としてではなく、パートナーとしての関係構築が求められるでしょう。


