タイの鉄道事業は、日本をモデルとした新法「鉄道輸送法2568年」の施行により、民間開放が本格化しています。これにより、年間100億バーツ(約500億円)以上の赤字を抱えるタイ国有鉄道(SRT)の財務負担軽減と効率化が期待されており、プラチャチャート・トゥラキット紙が報じました。
タイ鉄道の財政課題と新法導入
タイ国有鉄道(SRT)は長年にわたり、莫大な財政赤字に苦しんできました。毎年100億バーツ(約500億円)を下回らない赤字を計上し、政府からの補填や投資・維持管理費の負担が続いています。このような状況を打開するため、2026年3月末から「鉄道輸送法2568年」が正式に施行されました。
この新法は、民間企業がSRTの鉄道インフラ(線路など)を利用して鉄道輸送サービスを提供することを可能にするものです。これにより、既存のインフラをより有効活用し、輸送コストの削減と効率性の向上を目指します。現在、運行時間配分委員会の設置と関連省令の策定が進められています。
日本モデルに学ぶ鉄道事業の多角化
タイが今回導入する民間開放モデルは、1970年代から1980年代にかけて大きな転換期を迎えた日本の鉄道事業に酷似しています。当時の日本国有鉄道(JNR)は、2,500億円もの巨額な累積債務を抱え、1987年に民営化されJRグループへと分割されました。
JRグループは、北海道、東日本、東海、西日本、四国、九州の6社に分かれ、地域に特化した専門的な運営を行うことで効率性を高めました。さらに、JRグループ以外にも16の大手私鉄が存在し、都市間輸送、空港アクセス、JRがカバーしない地域路線などで重要な役割を果たしています。
運賃以外の収益源確保が鍵
日本の鉄道事業が成功した要因の一つは、運賃収入に過度に依存しない収益構造を確立したことです。日本では、国民生活への影響を考慮し、運賃値上げが法的に制限されるため、運賃収入は総収入のわずか10〜20%に過ぎません。そのため、各鉄道会社は多様な方法で利益を生み出す戦略を採用しています。
具体的には、駅周辺開発(TOD:Transit-Oriented Development)、不動産開発、土地活用、そして創造的な観光振興などが挙げられます。これらの事業は、鉄道事業の安定的な経営を支えるだけでなく、地域経済の活性化にも貢献しています。タイの鉄道も、バンコクをはじめとする主要都市でのTOD開発やスマートシティ構想と連携し、新たな収益源を創出する可能性を秘めています。
コスト管理とサービス向上の取り組み
日本の鉄道会社は、コスト管理にも力を入れています。採算の取れない地方路線は廃止されるか、地方自治体に移管されて運営が継続されることがあります。これは、地域住民の合意形成と参加を通じて行われます。
また、サービス面では、SuicaやPasmoといったICカードの導入により、鉄道だけでなく商業施設での決済も可能となり、顧客データに基づいたサービス改善が継続的に行われています。このような革新的なサービス提供と効率的な運営が、日本の鉄道事業の成功を支える基盤となっています。
タイ国有鉄道は、この日本モデルを参考に、2025年時点で総延長4,044キロメートルに及ぶ鉄道インフラの有効活用と、民間活力を取り入れた経営改革を通じて、持続可能な鉄道事業への転換を目指しています。これにより、在住者や旅行者の利便性向上、そしてタイ経済全体の発展に寄与することが期待されています。
タイの鉄道事業が日本のモデルを参考に民間開放を進める背景には、タイ国有鉄道(SRT)が抱える深刻な財政赤字という構造的な課題があります。年間100億バーツ(約500億円)を超える赤字は国家財政を圧迫し続けており、このままではインフラの維持・更新すら困難になりかねません。新法は、民間企業の資本とノウハウを導入することで、政府の負担を軽減しつつ、利用されていない鉄道インフラの潜在能力を最大限に引き出すことを狙っています。
この動きは、在住日本人や日系企業にも大きな影響を与える可能性があります。特に、日本の鉄道会社が得意とする駅周辺開発(TOD: Transit-Oriented Development)や不動産事業、観光振興といった分野での参入機会が生まれるでしょう。タイでは地方都市の経済活性化や都市と地方の格差是正が課題となっており、TOD開発が地方の都市計画に反映されることで、新たなビジネスチャンスや生活インフラの向上が期待されます。これにより、タイ全土における交通・生活の利便性が向上し、日系企業の事業展開にも好影響をもたらす可能性があります。


