ホーチミン市の主要不動産開発企業ベカメックスが、国家保有株比率の引き下げをホーチミン市人民委員会に提案しました。現在95.44%に及ぶ国家保有率を2026年から2030年にかけて65%超まで削減する計画で、公開株式発行を通じて実現を目指します。VnExpressの報道によると、これはベトナムの市場経済化と企業ガバナンス強化の動きと連動しています。
国家保有率95%超、公開企業要件との乖離
投資開発産業グループ「ベカメックス」は、6月2日にホーチミン市証券取引所へ送付した文書で、5月末時点の株主数が9,221人であることを明らかにしました。その中で、ホーチミン市人民委員会が唯一の大株主であり、国家がその資本の95.44%を保有しています。
現在のベカメックスは、ベトナムの証券法が定める公開企業の条件を満たしていません。同法では、最低10%の株式が100人以上の少数株主によって保有されている必要があります。しかし、国有企業における国家資本管理投資法の経過規定により、ベカメックスは引き続き公開企業としての資格を維持しています。これは、ベトナムが計画経済から市場経済への移行を進める中で、国有企業の株式会社化を段階的に推進している実情を反映しています。
2026-2030年目標:国家保有率65%超へ
ベカメックスは、公開企業としての株主構成要件を満たすため、国家保有率を現在の95.44%から、2026年から2030年の期間で65%超まで引き下げる具体的な案を策定し、ホーチミン市人民委員会の承認を求めています。この目標は、株式の公開発行を通じて達成される予定です。
この動きは、ベトナム政府が推進する国営企業改革の一環として位置づけられます。JICAの国別分析ペーパーでも指摘されているように、ベトナムは市場経済制度への移行と財政・金融改革を進めており、国営企業の刷新発展指導委員会を設立して改革を推進しています。ベカメックスの提案は、企業の透明性を高め、より市場原理に基づいた経営を目指す重要なステップと言えるでしょう。
南部経済の牽引役:ベカメックスの歴史と事業
ベカメックスの起源は1976年に設立されたベンカット総合商業会社に遡ります。当初は農産物の購入・加工や消費財の流通が主な事業でしたが、長年の発展を経て、南部地域における工業不動産、住宅不動産、インフラ開発のリーディングカンパニーへと成長しました。ホーチミン市はベトナム経済の中心地であり、ベカメックスはその成長を支える重要な役割を担っています。
昨年、ベカメックスは9兆8190億ドン(約589億円)の売上高と3兆5250億ドン(約211億円)の税引き後利益を計上し、その大半は不動産セグメントによるものです。今年の目標は、売上高を4%増の10兆2300億ドン(約614億円)、税引き後利益を10%増の3兆8830億ドン(約233億円)と設定しており、今後も安定した成長を見込んでいます。
市場の変動と過去の株式売却計画
ベカメックスは昨年初め、3億株の公開入札を通じて株式を売却し、国家保有率を約74%に引き下げる計画がありました。しかし、証券市場の状況が好ましくなかったため、この売却は一時的に延期されました。これは、ベトナムの証券市場が世界的な金融不安や国内経済の動向に敏感に反応し、株価が低迷する中で、IPO価格とその後の株価の動きを予測することが困難になったためと考えられます。
現在、ベカメックスはホーチミン証券取引所に10億株以上を上場しており、その時価総額は55兆5000億ドン(約3330億円)を超えます。今回の新たな提案は、市場環境を見極めつつ、国有企業改革という国家的な目標達成に向けた再挑戦と言えるでしょう。
今回のベカメックスによる国家保有株比率引き下げの提案は、ベトナムが計画経済から市場経済への移行を深化させる上で、国営企業が直面する構造的課題を浮き彫りにしています。ベトナム政府は、国有企業の株式会社化を通じて企業の効率性と競争力を高めようとしていますが、国家資本の管理と市場の要求との間でバランスを取る必要があり、そのプロセスは常に挑戦を伴います。
この動きは、ベトナムに進出する日系企業や在住日本人にとっても重要な意味を持ちます。国家保有率の引き下げは、企業の透明性向上やコーポレートガバナンスの強化に繋がり、より健全で予測可能なビジネス環境が整備される可能性を秘めています。特に、ベカメックスのような南部を代表する不動産・インフラ開発企業が市場化を進めることは、今後のベトナム経済全体の活性化、特にホーチミン市を中心とした投資環境の改善に寄与すると考えられます。


