ホーチミン市建設局は、狭い路地や住宅街での移動を改善するため、デマンド型交通(DRT)システムを採用したミニバスの試験導入を提案しました。この新しい公共交通モデルは、大型バスが進入困難な地域での「ラストマイル」問題解決を目指し、市民の利便性向上と交通網の拡充が期待されています。VnExpressが報じました。
ホーチミン市の交通課題とミニバス導入の背景
ホーチミン市では、多くの住民が暮らす狭い路地や住宅街において、既存の大型バス網ではアクセスが困難な地域が課題となっています。この「ラストマイル」問題は、市民が公共交通機関を利用する際の大きな障壁となっており、自家用車やバイクに依存せざるを得ない状況を生んでいます。今回提案されたデマンド型交通(DRT)は、利用者の需要に応じてルートや運行時間を柔軟に調整する小型車両サービスであり、既存のバスやメトロ網を補完する役割が期待されています。
DRTシステムの特徴と試験導入計画
DRTシステムでは、利用者は専用アプリを通じて乗車を予約し、システムが類似した目的地を持つ乗客を自動でグループ化して配車します。乗降場所は事前に登録された「仮想停留所」が設定され、運行はデジタルプラットフォーム上で管理されます。試験導入の初期段階では、ホーチミン国家大学周辺、市内中心部、またはベンタイン・スオイティエン・メトロ駅周辺など、特定のエリアで小規模に実施される予定です。ピーク時には固定ルートで運行し、オフピーク時には需要に応じて柔軟なサービスに切り替わる計画です。
専門家が語るDRTの可能性
ホーチミン工科大学交通工学部元学部長のファム・スアン・マイ准教授は、ホーチミン市の住民の約85〜86%が大型バスがアクセスしにくい路地や地域に居住していると指摘し、DRTが公共交通の空白地帯を埋める可能性を強調しています。多くの住民がバス停まで500メートル以上歩く必要がある現状に対し、DRTのような小型車両による乗り換えサービスは、公共交通をより住民の生活圏に近づけることができると期待されています。
ホーチミン市旅客輸送協会会長のレー・チュン・ティン氏は、DRTの運賃が既存のバスと同程度であれば、そのアクセシビリティの高さから利用者を大幅に引きつける可能性があると述べています。また、小型車両の導入は初期投資コストを抑え、より多くの輸送企業が参入しやすくなる利点もあります。小型車両は大型バスに比べて定員を満たしやすく、運行効率の向上にも寄与するとの見方です。
メトロ網との連携と利用者の利便性向上
専門家は、DRTがベンタイン・スオイティエン・メトロ線などの主要幹線交通の乗り換え手段として重要な役割を果たすと見ています。特にメトロ沿線地域では、DRTが住民を駅まで運び、メトロのサービス範囲を拡大する効果が期待されています。ホーチミン国家大学周辺では、学生や教員といったテクノロジーと電子決済に慣れた層が多いため、DRTの試験導入に適した環境であるとされています。
日本のOCGコンサルティング事務所所長のファン・レー・ビン博士は、DRTが日本を含む多くの国で導入されているが、その目的は様々であると指摘します。ホーチミン市においては、DRTを「乗り換えサービス」として位置づけ、アクセスが不十分な地域を支援する役割に限定すべきだと提言しています。これは、徒歩でのアクセスを完全に置き換えるのではなく、補完的なサービスとして機能させることを意味します。
テクノロジー配車サービスやタクシーとの競争
レー・チュン・ティン氏は、DRTがアプリを通じて配車される点でタクシーやテクノロジー配車サービスに類似しているとしながらも、特定の範囲内で運行され、登録された乗降地点を持つ公共交通機関であると強調しています。しかし、ファン・レー・ビン博士は、DRTがドアツードアのサービスを提供するテクノロジー配車バイクタクシーやタクシーと競争に直面する可能性を指摘しています。そのため、DRTが効果を発揮するには、大型バスやメトロとの便利な連携を確立することが不可欠です。
ファム・スアン・マイ准教授も、DRTがドアツードアサービスで直接競争するのではなく、安定した費用、安全性、公共交通ネットワークとの連携、待ち時間の最適化といった点で差別化を図るべきだと主張しています。また、狭い路地に小型車両を導入する際には、交通渋滞や見通しの悪い交差点での安全性の問題、住民の生活への影響などを慎重に考慮する必要があるとも警告しています。無秩序な駐車や「非公式なバス停」の発生を防ぐため、仮想停留所の厳格な管理体制も求められています。
現在、ホーチミン市には180路線に2,400台以上のバスが運行されており、その多くは20〜60人乗りの大型車両です。これらのバス網が主に幹線道路に集中しているため、路地や住宅街の住民はバス停まで遠くまで移動する必要があるのが現状です。
今回のホーチミン市におけるミニバス導入提案は、急速な都市化が進むベトナムの公共交通が抱える構造的な課題、特に「ラストマイル」問題への具体的な解決策として注目されます。多くの都市で、住民の生活動線と公共交通網の間に隙間が生じている中、DRTのような柔軟なモビリティは、公共交通指向型都市開発(TOD)の推進において不可欠な要素となり得ます。
在住日本人や日系企業にとって、このミニバス導入はホーチミン市内の移動、特に住宅街や工場へのアクセスに新たな選択肢を提供する可能性を秘めています。既存の公共交通網だけではカバーしきれなかった地域へのアクセスが改善されれば、従業員の通勤利便性向上や、ビジネス活動の効率化にも繋がるでしょう。一方で、新たな交通手段の導入は、既存のタクシーや配車サービスとの競争激化、さらには交通管理の複雑化といった課題も生じさせる可能性があり、今後の運用状況を注視する必要があります。


