サムスン電子が中国の家電市場から撤退する意向を示していることが、日経の報道で明らかになりました。同社はすでに中国の従業員やビジネスパートナーにその可能性を伝えており、4月末にも正式決定する見通しです。この動きは、中国市場での激しい価格競争を避け、高付加価値製品に注力する戦略の一環と報じられています。
中国家電市場からの撤退と高付加価値戦略
サムスンは、中国における家電事業を年内に終了するため、在庫の段階的な清算を進める方針です。今後は、中国市場では半導体とスマートフォン事業に集中するとのこと。冷蔵庫、洗濯機、エアコンなどの生産工場は、輸出向けとしては引き続き稼働を維持します。
ビジネス・コリアによると、このサムスンの動きは、安価な中国国内製家電製品との 「消耗戦」を回避し、同社がより自信を持つ高付加価値デバイス分野に集中する戦略 と解釈されています。中国経済が低付加価値製造業から高付加価値産業へと構造変化を遂げる中で、サムスンのようなグローバル企業が事業の「選択と集中」を進める動きは、多くの国際企業にとって共通の課題となっています。
激化する競争と国際ブランドの苦戦
日経は、中国市場の地元競合他社が単に低価格であるだけでなく、製品の品質も向上させており、韓国や日本のメーカーと国内だけでなくグローバル市場でも直接的に競争していると指摘しています。中国の調査会社であるラント・テクノロジーのデータでは、昨年の中国でのテレビ出荷台数3,289万台のうち、サムスンを含む国際ブランドは100万台未満しか占めていません。
ユーロモニターのデータによると、2025年には中国のハイセンスとTCLの2社が世界のテレビ販売台数の 31.9%を占め、韓国のサムスンとLGの合計市場シェア30.4%を上回る と予測されています。これは2016年のそれぞれ16%と35%という比率から大きく変化しており、中国企業の台頭が鮮明になっています。
巨大市場の変革と地元企業の優勢
インドの市場調査会社モルドール・インテリジェンスによると、大型家電製品(冷蔵庫、冷凍庫、洗濯機、乾燥機、食器洗い機、オーブン、コンロ、エアコン、換気扇)の中国市場規模は、2026年には875.5億ドル(約13.1兆円)に達し、2031年には1,000億ドル(約15兆円)を超えると予測されています。しかし、この市場における売上高トップ5は、ハイアール、ミデア、グリー、ハイセンス、TCLといった すべて中国国内のブランドが占めています。
中国の消費者は、国産のエレクトロニクス製品をますます好む傾向にあり、国際ブランドにとっては大きな 課題 となっています。さらに、AIブームが半導体価格を押し上げ、家電業界にも影響を与えていますが、韓国企業は中国企業に比べて価格競争力が低い状況にあります。
流通網の再編と過去の教訓
コリア・タイムズによると、サムスンは中国における家電製品およびテレビの流通ネットワークに関して、さまざまな選択肢を検討してきました。先月には同社の幹部が上海を訪れ、状況を評価。LGエレクトロニクスのオンライン事業を買収したJDとサイフェ・オペレーションズが、サムスンの事業引き継ぎを検討していると報じられています。
サムスンは、中国メーカーの急速な発展を受け、日本の大手電子機器メーカーの足跡をたどる形となっています。2017年にはハイセンスが東芝のテレビ事業を買収し、先月にはソニーがテレビ事業の51%とマレーシアの工場をTCLに売却しました。これらの事例は、グローバル・バリューチェーンが再構築され、アジアを中心とした競争激化が加速していることを示しています。
サムスンの公式見解と事業構造
4月15日にソウルで開催されたイベントで、サムスンのディスプレイ事業責任者であるヨン・ソクウは、中国での競争圧力について言及しました。彼は同社がさまざまな選択肢を検討しているとしながらも、市場からの再編や撤退という憶測は否定しました。しかし、コリア・タイムズが引用したサムスンの幹部の言葉では、中国での計画について「状況はまだ変化しており、検討中である」と述べられています。
昨年、サムスンの連結売上高において、家電製品とテレビ部門は17%を占め、半導体とスマートフォン(それぞれ39%)に次ぐ第3位でした。しかし、2025年にはこの部門で 史上初の営業損失2,000億ウォン(約220億円) を計上する見込みで、2024年の1.7兆ウォン(約1,870億円)の利益から一転する形となります。ヨン・ソクウ氏は、ハードウェア部門が競争と地政学的要因による圧力に直面している一方で、ディスプレイ事業は一部が懸念するほど困難ではないと述べ、事業の安定化を強調しました。
米国市場への注力とグローバル戦略の再編
日経によると、サムスンは中国からの撤退後、プレミアムセグメントと米国市場に集中することで、 利益回復を期待 しています。同社は今年を「AIテレビが普及する年」と位置づけ、音声コマンドで情報を表示できる新しいAIテレビシリーズを発表しました。
この韓国の巨大電子企業は、6月に始まるFIFAワールドカップを前にテレビをアップグレードしたい米国の家庭をターゲットにしています。モルドール・インテリジェンスによると、サムスンは2025年に米国でのテレビ販売額でトップに立ち、冷蔵庫や洗濯機でも高い市場シェアを維持しています。米国の関税が利益に影響を与える可能性もありますが、サムスンの家電部門幹部は、南米を含む世界中の工場を活用するなど、コスト削減のための解決策を見つけると述べています。
さらに、サムスンはグローバル家電事業の再編を進めており、 効率の悪い食器洗い機や電子レンジの生産ラインを閉鎖し、外部委託に切り替える可能性 も検討しているとのことです。家電部門はまた、1989年以来重要な海外生産拠点であったマレーシアの工場閉鎖を含む、事業の合理化計画を従業員に示しています。
サムスンの中国家電市場撤退検討は、中国におけるグローバル企業のビジネスモデルが大きく変化していることを示唆しています。安価で品質が向上した地元ブランドとの競争激化は、在留日本人や日系企業が中国市場で事業を継続する上で、単なる価格競争から高付加価値製品・サービスへの転換が不可避であることを突きつけています。特に、家電のようなコモディティ化しやすい分野では、イノベーションやブランド力による差別化がより一層求められるでしょう。
この動きは、中国経済の構造が低付加価値製造業から高付加価値産業へとシフトする中で、グローバル企業が自社の強みを生かせるニッチな市場や、より成長が見込める地域へと事業を再編する動きと捉えられます。サムスンが半導体やスマートフォンに注力し、米国市場に軸足を移すのは、まさに高付加価値化とグローバル・バリューチェーンの再構築を目指す戦略であり、日本企業にとっても同様の「選択と集中」が今後の競争力を左右する重要な課題となるでしょう。


