バンコクの電気鉄道運賃を巡り、タイ消費者評議会は政府が検討する60バーツ(約300円)の上限案に強く反対し、40バーツ(約200円)への据え置きを要求しています。市民の経済的負担を軽減するため、政府に対し一貫した公共交通政策の実施を求めていると、プラチャチャート・トゥラキットが報じました。
バンコクの電気鉄道運賃、60バーツ案に強い反発
タイの鉄道輸送局は、電気鉄道の運賃政策として、10駅までの近距離移動には40バーツ(約200円)、それ以上には最大60バーツ(約300円)を適用し、さらに毎年5バーツ(約25円)ずつ値上げし最終的に90バーツ(約450円)まで引き上げる案を提示しました。これに対し、タイ消費者評議会は、この計画が市民に過度な負担を強いるとして、強く反対の意を表明しています。同評議会は、以前から提案されている40バーツでの一律料金が、予算に負担をかけずに実現可能であると主張しています。
「40バーツ上限」は実現可能、世界銀行も推奨
消費者評議会のサリー・オンソンワン事務局長は、電気鉄道運賃の上限を60バーツに引き上げることは、タイ貢献党が提唱する20バーツ/回、プームチャイタイ党が提唱する40バーツ/日の公約に反すると指摘しました。同評議会は、交通費が最低賃金の10%を超えないという原則に基づき、40バーツ/日の上限が実現可能であり、これは世界銀行が多くの国で推奨する基準でもあると強調しています。サリー事務局長は、「価格設定が頻繁に変わると、市民の政策に対する信頼を損なう」と警鐘を鳴らしました。
不要なインフラ投資の見直しと公共交通への転用を提案
サリー事務局長は、バンコクの交通渋滞解決に繋がらない可能性のある高架道路(ダブルデッキ)建設プロジェクト(350億バーツ、約1,750億円)のような不必要な大規模インフラ投資を見直すべきだと提案しています。このようなプロジェクトは、タイ高速道路公社の年間収入約75億バーツ(約375億円)を失わせる可能性があり、その予算を電気鉄道、バス、水上交通などの公共交通システムへの支援に転用することがより効果的であると述べました。
「公共サービス」としての鉄道運賃のあり方
消費者評議会は、電気鉄道を「公共サービス」であり、利用者が全額を支払うべき「商品」ではないと位置づけています。サリー事務局長は、運賃が80〜90バーツ(約400〜450円)に達するようでは、政府が何の支援もしていないに等しいと指摘。実際、1回あたりの運行コストは数十バーツに過ぎず、20バーツ/回または40バーツ/日の上限は十分実現可能であり、これによりより多くの人々が公共交通機関を利用できるようになると強調しました。政府が年間55億バーツ(約275億円)の補助金を拠出することは可能であり、問題は政策決定と継続性にあると訴えました。
「10駅基準」の不透明性と市民負担の増大懸念
消費者評議会輸送・車両小委員会のアシスタント事務局長であるコンサック・チューンクライラート氏は、10駅までの移動に40バーツ、それ以上で60バーツとする基準は、市民の実際の移動パターンと一致しない可能性があると指摘しました。特に、40分以上かかる路線や、10駅を超える移動を余儀なくされる場合、多くの乗客が意図せず高額な運賃を支払うことになると懸念を示しました。また、「10駅」という基準が国際的な標準に準拠しているか不明瞭であり、毎年5バーツずつ値上げする案は、将来的には90バーツ近くに達し、長期的に市民の負担を増大させると警告しました。
公正な運賃体系実現のための4つの提言
消費者評議会の政策推進支援部門責任者であるアディサック・サイプラサート氏は、公共交通システム改革には明確な「考え方」が必要であり、特に最低賃金の10%を上限とする運賃設定は、多くの国で採用されている国際的な公正原則であると述べました。高額な電気鉄道運賃の問題を解決するため、同評議会は以下の4つの重要な提言を行っています。
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コストの透明性確保:政府機関と民間契約者の過去3年間のコストデータを公開し、乗客数、運賃収入、広告収入、商業スペース収入、運行コスト、維持費、資産価値などを正確に評価できるようにする。これは共同チケットシステム法B.E.2568(2025年)第31条で義務付けられている。
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共同運賃政策の導入:運賃を最低賃金の10%以下に設定する。現在のバンコクの最低賃金は1日約400バーツ(約2,000円)であるため、公共交通機関の運賃は40バーツ(約200円)を超えないべきである。法律では、施行日から180日以内(2026年6月25日まで)に共同運賃率を定める省令を公布する必要がある。
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民間契約者への公正な補償:政府が効率的なコストを反映した収入を保証する「コスト/収益償還」モデルを採用し、政府の負担を制限する上限(Cap & Collar)を設定する。収入が設定額を超えた場合は政府と民間企業で分配し、補償を定時性や安全性などのパフォーマンス指標(KPI)に連動させる。これにより、年間約55.12億バーツ(約275.6億円)の補償額に抑えられると試算されている。
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補償資金の確保:政府予算、タイ高速度交通公社(MRTA)からの資金、バンコクおよび周辺地域の自動車税、検討中の交通渋滞課金、不動産開発による棚ぼた税など、複数の財源から補償資金を調達する。これは共同チケットシステム法B.E.2568(2025年)第37条(3)に定められている。
これらの提言は、タイの公共交通機関を真に持続可能で公正なシステムへと改革し、市民の生活の質を向上させることを目指しています。
タイの公共交通機関運賃に関する今回の議論は、単なる価格設定の問題に留まらず、国家のインフラ整備と財政規律、そして市民生活のバランスという構造的な課題を浮き彫りにしています。過去のタクシン政権下で推進された「メガプロジェクト」に代表されるように、タイでは大規模なインフラ投資が経済成長の原動力とされてきましたが、その運営コストや財源確保は常に課題でした。特に、公共サービスとしての鉄道の役割と、民間企業への補償という二律背反する側面をどう調整するかが、持続可能な都市交通システム構築の鍵となります。
バンコクに在住する日本人や日系企業にとっても、この運賃問題は看過できません。運賃が上がれば、従業員の通勤費負担増や、ビジネスコストの上昇に直結します。消費者評議会が提唱する「最低賃金の10%」という世界銀行基準は、市民の購買力を維持し、経済の基盤を安定させる上で極めて重要です。透明性のあるコスト開示や、効率的な補償メカニズムの導入は、海外からの投資を呼び込む上でも、タイのガバナンスに対する信頼を高める要因となり得るでしょう。今後の政府の政策決定は、タイの経済成長と社会の公平性に大きな影響を与えることになります。


