タイ商業省は、ドリアン豊作による価格下落を防ぐため、東部地域を中心にドリアンなどの果物の市場管理を強化する方針を打ち出しました。特に小粒の「スーパーミニドリアン」の需要を喚起し、ライブコマースや直接販売を通じて農家の所得安定を目指します。この取り組みは、タイ経済専門メディアPrachachatが報じています。
豊作と市場圧力:ドリアン農家が直面する課題
タイでは2026年の果物シーズンが本格化し、特に東部地域では5月10日頃から6月にかけて大量のドリアンが市場に出回る見込みです。しかし、今年は前年比でドリアン生産量が33%増加すると予測されており、市場の過剰供給が懸念されています。さらに、高温と乾燥した気候により、小粒で規格外のドリアンが増加傾向にあります。このような気候変動の影響は、伝統的な農業経済に大きな打撃を与えかねません。加えて、世界経済の変動や輸送コストの高騰も、輸出価格や農家手取り価格への圧力を強める要因となっています。
商業省の先行的市場創出戦略:過剰供給を防ぐ
タイ商業省は、収穫量のピークを待って問題が発生してから対応するのではなく、事前に需要を創出する積極的な戦略を展開しています。副首相兼商業大臣のスパジー・スタムパン氏は、ライブコマースプラットフォームを活用したドリアンの販売促進や、農家からの直接販売チャネルの開設が、この先行的な需要創出の重要な柱であると強調しました。これは、物理的アクセスや経済的アクセスの問題に対応した平時からの食品アクセスを確保し、食料システムを安定させる狙いがあります。
具体的には、ビジネスマッチングの加速、ベトナム経由での中国南部への輸出ルート円滑化、さらに中国西部、韓国、インド、アラブ首長国連邦といった新規市場への拡大も目指しています。これらの取り組みにより、仲介業者への依存を減らし、農家がより多くの収益を得られるように支援します。商業省は、2026年のタイ産果物輸出額を前年比5%増の1,790億バーツ(約8,950億円)に引き上げることを目標としています。
「スーパーミニドリアン」で新たな需要を喚起
商業省は、小粒の「スーパーミニドリアン」の消費を促すマーケティング戦略を展開しています。これらのドリアンは、一部輸出規格には満たないものの、品質や味は優れており、消費者がより手頃な価格で購入できるという利点があります。この取り組みは、規格外品を産業廃棄物として埋め立て処分することなく、付加価値を高めるBCG経済モデルにも合致しています。スパジー大臣は、「このまま何もしなければ、大量のドリアンが出回った際に農家が買い叩かれることになる。手遅れになる前に対応する」と述べ、この新しい市場戦略の重要性を訴えました。
輸出市場の拡大とオンラインプラットフォーム活用
タイは2025年に208万トンの生鮮果物を輸出し、その価値は1,712億バーツ(約8,560億円)に達しました。特に2026年1月から3月までの生鮮果物輸出は前年同期比56.2%増、生鮮ドリアンは181%増と大幅に伸びており、海外市場での需要の高さが示されています。
商業省は、国内外での積極的な施策を通じて、2026年の果物輸出目標達成を目指します。これには、3月に開催されたビジネスマッチングイベントが含まれ、101社のタイ輸出業者と18カ国から90社の輸入業者が参加し、31億2,051万バーツ(約156億円)の取引が成立しました。また、ベトナムや中国の国境地域への訪問を通じて、2026年の果物輸送と流通を円滑化するための準備を進めています。
今後のプロモーション活動としては、タイ最大の食品見本市「Thaifex-Anuga Asia 2026」への参加に加え、中国の主要7都市(上海、アモイ、南寧、成都、青島、広州、昆明)で「Thai Tropical Fruits Golden Months」プロジェクトを展開します。さらに、中国西部地域の新規市場(銀川、玉渓、ウルムチ)やその他の地方都市8か所にも拡大し、タイ産果物の消費者層を広げます。中国以外の市場では、韓国、インド、アラブ首長国連邦の百貨店と連携した販売促進活動が計画されています。
オンラインチャネルでは、Thaitrade.comおよびTOPTHAIを通じて、Amazon(米国)、TmallおよびPUPU(中国)、楽天(日本)、Letstango(アラブ首長国連邦)、HKTVmall(香港)、Bigbasket(インド)などのグローバルな提携プラットフォームと協力し、生鮮果物および加工果物の販売を強化します。これにより、タイ在住の日本人や海外の消費者も、より簡単にタイ産果物を購入できるようになるでしょう。
災害対策と規格外品の有効活用
商業省は、チャンタブリー県で発生した嵐によるドリアン農園の被害状況も綿密に追跡しています。スパジー大臣は、被害を受けた農家への迅速な支援と補償のため、県商務事務所に知事と連携し、内務省とも協力して対応を急ぐよう指示しました。品質に問題がなく、乾燥重量が30%以上の被害を受けたドリアンについては、買い手と加工業者を派遣し、特にドリアンチップスなどの加工品として有効活用することで、農家の損失を軽減し、収入源を確保する方針です。
また、被害を受けていないドリアンについては、国内取引局が買い手と直接農家を繋ぎ、市場確保を支援します。さらに、被害が大きく生食や加工に適さないドリアンも、アイスクリームやドリアン粉末などに加工することで、付加価値を高め、廃棄を減らす取り組みを進めます。これにより、市場に出回るドリアンの品質を維持し、消費者からの信頼を守る狙いもあります。
タイ経済における農業セクターの重要性
タイの農業・食料関連産業は、国内総生産(GDP)の約11%を占める重要なセクターです。特に果物産業は、気候変動の影響を受けやすく、旱魃や異常気象が収穫量や品質に直結します。今回の商業省の取り組みは、単なる市場価格の維持だけでなく、農業セクター全体の持続可能性と、小規模家族農業を含む農家の生活安定を目指すものです。タイ政府は、BCG経済戦略の下、農産物の品質向上と高付加価値化を推進し、食料安全保障の強化にも取り組んでいます。これらの政策は、農業がタイ経済の基盤であり、国際競争力を維持するための鍵であることを示しています。
タイ商業省がドリアンの過剰供給問題に対し、危機発生後に対応するのではなく、事前に需要を創出する戦略へと転換している点は、タイ経済における農業セクターの構造的課題への新たなアプローチと言えます。気候変動による農産物の品質変動や、世界経済の不安定さが増す中で、伝統的な農業に依存してきたタイが、デジタル化と市場多角化を積極的に取り入れているのは注目に値します。
この政策は、タイ在住の日本人にとってもドリアンをはじめとするタイ産果物が、より手頃な価格で、かつ安定して供給される可能性を示唆しています。特に「スーパーミニドリアン」の需要喚起は、フードロス削減と消費者の選択肢拡大に繋がり、日々の生活における物価変動への影響も期待されます。また、オンラインプラットフォームを通じた輸出強化は、タイがグローバルサプライチェーンの中で農業製品の競争力を高めようとしている明確な兆候であり、今後、タイの農業経済がさらに発展していく上での試金石となるでしょう。


