ベトナムのMB銀行は、不良債権を抱える他行の引き受けを機に、融資残高を大幅に拡大する戦略を打ち出しました。2025年には融資残高が前年比約40%増となる1兆ドン(約6兆円)超に達する見込みで、これはシステム全体の平均を大きく上回ります。VnExpressの報道によると、同行はこの戦略を「飛躍の機会」と捉えています。
ホーチミン:MB銀行が示す異例の融資拡大
ベトナムのMB銀行が発表した2025年の事業計画では、貸出残高が前年比で約40%増加し、1兆ドン(約6兆円)を超える見通しです。これは、ベトナムの銀行システム全体の平均成長率19%を大幅に上回るペースです。一方、預金残高は約30%増の921兆4,000億ドン(約5兆5,284億円)に達するものの、融資の伸びには及んでいません。しかし、MB銀行のファム・ニュー・アイン総支配人は、この預金と融資の成長率の差は懸念するほどではないと説明しています。
不良債権引き受けが成長の鍵
この積極的な融資拡大の背景には、ベトナム国家銀行(中央銀行)が主導する不良債権を抱える金融機関の再編があります。MB銀行は、かつて不良債権を多く抱えていたベトナム・モダン商業銀行(MBV)を強制的に引き受けたことで、規制当局から約35%という高い信用成長率を許可されました。ファム総支配人は、「これは規模を拡大し、システム内での地位を高める特別な機会である」と述べ、この状況を「飛躍のための絶好のチャンス」と強調しています。
近年、ベトナムでは経済成長を上回るペースでの貸出拡大が続いており、MB銀行の戦略はその流れをさらに加速させるものと言えるでしょう。
健全性を保つ多角的な資金調達
MB銀行は、顧客からの預金、自己資本(約150兆ドン、約9,000億円)、国際市場からの資金調達(30億米ドル)、およびインターバンク市場からの資金など、多様な資金源を確保しています。これにより、流動性のバランスを維持し、預貸率(LDR)は2025年末時点で79%に留まる見込みです。これは、国家銀行が定める上限85%を下回っており、同行の財務の安全性が確保されていることを示しています。また、不良債権比率も過去3年間で継続的に改善しており、2025年には連結ベースで約1.5%、単体では1%未満を目指すとしています。
利益拡大とデジタル資産への進出
銀行の利益成長は、総資産規模と信用残高に大きく依存しており、純金利マージン(NIM)が3~4%程度で推移する中、規模の拡大が利益増大の鍵となります。ファム総支配人は、この高成長サイクルにおける残り3年間を最大限に活用しつつ、安全性とリスク管理を確保していく方針です。
また、MB銀行はデジタル資産分野への参入計画も明かしました。ルー・チュン・タイ会長は、海外企業と提携してデジタル資産の運用を行う計画があるとし、銀行の利益は取引所の運営ではなく、投資家へのサービス提供にあると説明。直接的なライセンスがなくても、提携を通じて決済機能を提供し、関連商品を販売することで、この成長分野への参加機会を逃さない意向を示しました。
2025年事業計画と市場への影響
株主総会では、MB銀行の2025年事業計画が承認されました。これには、税引前利益を2024年比で約15%増の39兆4,000億ドン(約2,364億円)とする目標が含まれています。総資産も28%増加し、2京ドン(約12兆円)を超える目標が設定されました。
ベトナム国家銀行は各銀行のセクターごとの融資成長率を監督しており、MB銀行のこの積極的な計画が承認されたことは、ベトナムの金融当局が不良債権処理と経済成長の両立を目指す姿勢を反映していると言えるでしょう。この動きは、在住日本人や日系企業がベトナムの金融市場動向を理解する上で、重要な指標となります。
MB銀行の積極的な融資拡大は、ベトナム経済全体の成長期待と密接に連動しています。特に、不良債権を引き受けることで優遇的な融資枠を得る戦略は、政府主導で金融システムを安定化させつつ、成長を加速させるベトナム特有のメカニクスを示唆しています。日系企業にとっては、このような銀行の積極姿勢は、設備投資や事業拡大のための資金調達機会が増える可能性を意味し、現地でのビジネス展開を検討する上で重要な考慮事項となるでしょう。
ベトナムの金融システムは、経済成長を背景に貸出が拡大する一方で、不良債権処理や金融機関の健全性維持が課題となってきました。MB銀行のケースは、政府が不良債権を抱える金融機関の再編を促し、健全な銀行がその役割を担うことで、金融市場全体の安定化を図ろうとしている構造を浮き彫りにします。これは、国際通貨研究所が指摘する「ベトナムやカンボジアでの経済成長を上回るペースでの貸出拡大」という状況下で、リスク管理と成長の両立を目指すベトナム金融当局の戦略の一端と見ることができます。


