ベトナムの公共投資プロジェクトにおいて、入札価格の低さが工事の遅延と品質低下の主因となっている実態が国会で報告されました。クアンチ省のホアン・スアン・タン副人民委員会委員長がこの問題を指摘し、入札制度の見直しを提言。VnExpressが報じたところによると、政府は今後、投資計画の実行効率化に注力する方針です。
低価格入札が招くプロジェクトの長期化と品質問題
クアンチ省のホアン・スアン・タン副人民委員会委員長は、公共投資の中期計画に関する国会討議で、現在の入札制度が「価格引き下げ」に焦点を当てていると指摘しました。これにより予算節約には繋がるものの、低価格入札は「品質の低下、進捗の遅延、工事の長期化」を招く傾向があると同氏は述べています。
具体的な事例として、日本の政府開発援助(ODA)資金も活用された1兆ドン(約60億円)の排水プロジェクトを挙げました。このプロジェクトでは、建設パッケージの平均価格が約24%、中には40%も削減された結果、プロジェクトが3年遅延し、甚大な損害が発生したとのことです。日本はベトナムへの最大のODA供与国であり、このような低価格入札がインフラプロジェクトの信頼性や効果に与える影響は大きいと考えられます。
建設企業のインセンティブと行政手続きの課題
タン副委員長は、低価格で落札した建設業者は利益が出ない、あるいは赤字になるため、他のプロジェクトを優先し、結果として公共事業の進捗が滞ると説明しました。また、投資が困難になることで、多くの行政手続きが発生し、プロジェクトの遅延に拍車がかかるとも指摘しています。
これは、ベトナムの建設会社が、特に優秀な企業ほど公共事業よりも民間建設事業を好む傾向にあるという背景データとも一致します。公共事業の契約が企業にとって魅力的でないため、結果として公共投資の品質確保が難しくなっている状況がうかがえます。
指名入札制度の拡大と効率化の提言
この状況を改善するため、タン副委員長は関連法の改正を要求しました。特に、標準化された建設(例:学校の教室)では、指名入札の範囲を20億ドン(約1,200万円)から100億ドン(約6,000万円)に引き上げるべきだと提案しました。
かつてベトナムでは随意契約が多かったものの、透明性確保のため競争入札への移行が進められてきました。しかし、今回の提言は、効率性と品質確保の観点から、一部で指名入札を柔軟に活用する可能性を示唆しており、ベトナムにおける公共事業のあり方について再考を促しています。
投資効果への視点転換と資金運用の透明性
ファム・トゥイ・チン経済財政委員会副委員長は、「資金の支出」から「高い効果」への思考の転換が必要だと強調しました。長年の実態として、資金自体が大きな問題ではなく、投資準備段階の遅れ、用地取得の遅れ、プロジェクト実施能力の不足が資源の浪費に繋がっていると指摘しています。
チン副委員長は、成果に基づく資金支出メカニズムの適用を提案し、前の段階の目標が達成されなければ次の段階に資金を割り当てないという原則を確立すべきだと述べました。また、資金支出率とプロジェクト効果を公開し、広範囲にわたる投資を避けるべきだとも提言しています。これは、ベトナムのPPPインフラプロジェクトで指摘される選定手続きの透明性問題に対応するガバナンス強化の動きと言えるでしょう。
地方都市の財源活用と政府の対応
タン副委員長は、能力のある請負業者を選定する上での投資家の責任強化も求めました。ハノイ、ホーチミン、ハイフォン、ダナンといった大都市では、公共交通指向型開発(TOD)モデルや地方政府債などの金融ツールを柔軟に活用し、地域資源を効果的に活用し、持続可能な開発を促進すべきだと提言しています。
財務大臣のゴー・バン・トゥアン氏は、公共投資資金の効率的な使用は「必須要件」であると説明。現在の入札プロセスが6ヶ月から1年かかることから、各部門に対し、実施段階、用地問題、基準、建設資材の価格に関する障害を再検討するよう指示する方針を示しました。今週中にも、レ・ミン・フン首相が公共投資の資金支出に関する全国会議を主宰し、行政手続きを含む全プロセスを見直す予定です。
中期公共投資計画の承認へ
国会は4月24日に中期公共投資計画を採決する予定です。政府は2030年までに総額8220兆ドン(約49兆3200億円)の公共投資を提案しており、これは過去5年間の実行額の2.7倍にあたります。これほどの巨額投資を効果的に運用するためには、入札制度の見直しとプロジェクト管理の厳格化が不可欠です。
ベトナムの公共投資における低価格入札の問題は、単なる経済的判断を超えた構造的な課題を浮き彫りにしています。予算節約を目的とした入札制度が、結果的にプロジェクトの品質低下や遅延を招くという指摘は、過去の入札プロセスにおける透明性の問題や、優秀な建設企業が公共事業を避ける傾向があるという背景データを裏付けるものです。これは、国家予算の効率的な配分という大義名分と、実際のプロジェクト遂行能力との間に大きなギャップがあることを示唆しています。
このような公共投資の遅延や品質問題は、ベトナム経済全体の成長だけでなく、在住日本人や日系企業にも間接的な影響を与えます。インフラ整備の遅れは物流コストの増加や事業環境の悪化に繋がりかねません。また、公共事業の信頼性低下は、政府との連携を模索する企業にとって不透明感を増大させる要因ともなり得ます。政府が「資金の支出」から「高い効果」への思考転換を促している点は、今後のベトナムのビジネス環境改善に向けたポジティブな変化の兆しと捉えられますが、実効性のある法改正と運用が求められます。


