ベトナム司法省は、地域における紛争解決を担う調停員に対し、大学卒業資格と専門証明書の義務化を提案しました。これは、現在審議中の改正地域調停法案の評価書類で明らかになった主要政策の一つです。VnExpressが報じたところによると、この改正は調停活動の専門性を高め、紛争解決の効率化を目指すものです。
現行の調停制度と課題
2013年に施行された現行の地域調停法に基づき、各調停組織は3人以上の調停員で構成されています。地方自治体人民委員会委員長は、地域の状況に応じて組織内の調停員の数を決定しています。現在の規定では、調停員は当該地域に居住するベトナム国民で、良好な道徳的資質、地域社会での評判、説得力、動機付け能力、および法的知識を有することが求められています。
しかし、10年以上の運用を経て、現行法には不適合な規定がいくつか現れています。現在、調停員は一件あたり30万~40万ドン(約1,800~2,400円)という「奨励金」程度の報酬しか受け取っておらず、これが専門性向上の動機付けを妨げていると指摘されています。特に、複雑な土地紛争などでは、現地の調停員が十分な能力や法的知識を持たず、解決に至らないケースも多いのが現状です。
また、調停員の権利と義務に関する規定が包括的でなかったり、専門的な助言を求めるリソースの動員に消極的であったりする課題も残っています。さらに、裁判所との情報連携メカニズムが不足しているため、調停結果の承認プロセスに支障が生じ、調停記録の執行力や紛争当事者の正当な権利に影響を与える可能性も指摘されています。
新法案の主要な提案
司法省は、地域調停の専門性を高めるため、現行の「調停組織」モデルを廃止し、各地方自治体レベルで「コミュニティ調停センター」を設立することを提案しています。さらに、調停員には大学卒業資格と専門職証明書を義務付け、地方自治体が直接雇用する制度への移行を目指します。
この政策は、シンガポールやオーストラリアの調停モデルを参考に、紛争解決のプロフェッショナル化を推進し、憲法と法律の尊重を最優先とするものです。司法省は、学歴や資格、能力評価と調停員の選定を結びつけることで、地域や紛争の種類に応じた適切な人材を確保できると説明しています。
質の向上と財政支援
新法案では、調停員が調停案件の質に責任を持つことを明記し、調停結果や地域社会からの信頼度、法令遵守状況に基づいた定期的な評価メカニズムを確立することで、調停活動の質向上を促進します。これにより、調停員はより質の高いサービス提供への意欲を高めることが期待されます。
財政支援についても、コミュニティ調停センターの運営費用(施設費、人件費など)は国家予算で賄われることが提案されており、安定した活動基盤が整備される見込みです。これにより、調停員が報酬の心配なく、専門的な業務に集中できる環境が整うことになります。
調停活動の成果と重要性
地域調停は、住民間の小さな対立や紛争をコミュニティ内で解決するための重要なメカニズムです。2014年1月から2025年12月までの期間で、ベトナム全国では合計906,763件の調停案件が処理され、そのうち80.22%にあたる735,785件が成功裏に解決しました。特にラオカイ省(88.46%)、タイニン省(88.32%)、トゥエンクアン省(87.27%)、ドンタップ省(85.84%)、ライチャウ省(85.80%)、ホーチミン市(85.24%)、アンザン省(85.17%)、クアンガイ省(84.96%)など、高い成功率を誇る地域も存在します。
地域調停は、土地、民事、婚姻・家族関係などの紛争解決に特に貢献しており、行政機関への苦情や上級機関への提訴を大幅に抑制し、平和で幸福なコミュニティの維持に重要な役割を果たしています。また、生活様式の違いや通行権、共有電気・水道の使用に関する対立など、日常生活で発生する多様な紛争の解決にも寄与しています。
今後の展望と課題
今回の法改正提案は、ベトナムにおける地域紛争解決システムをより強固で専門的なものに進化させるための重要な一歩となるでしょう。教育水準と専門性を高めることで、複雑な法的問題にも対応できるようになり、地域社会の紛争解決能力が向上することが期待されます。この改革は、ベトナムの法治国家としての基盤を強化し、国民の生活の質を高める上で極めて重要です。
今回のベトナム司法省による地域調停員の大学卒資格義務化提案は、同国の急速な経済発展と社会構造の変化が背景にあります。都市化の進展や土地利用の変化に伴い、従来のコミュニティ内で解決できた紛争が複雑化し、法的知識や専門的な交渉スキルが不可欠となってきています。これは、単なる資格要件の変更に留まらず、国全体の法治主義を強化し、市民の権利保護を向上させようとするベトナム政府の強い意志の表れと言えるでしょう。
この改革は、在ベトナム日本人にとっても無関係ではありません。例えば、賃貸契約や近隣住民との小さなトラブルなど、日常生活で発生しうる紛争において、より専門的で信頼性の高い調停サービスが利用できるようになる可能性があります。また、企業活動においても、法的安定性の向上は投資環境の改善に繋がり、ベトナムのビジネス環境の透明性と効率性を高める効果が期待されます。教育水準の向上は、国際社会からの信頼獲得にも繋がる重要なステップと言えるでしょう。


