ベトナム南部のリゾート地、ファンティエットに建設中の新空港が、地域の象徴であるチャム族の古塔「ポー・サー・イーヌー」から着想を得たユニークなデザインで注目を集めています。総工費3兆9,000億ドン(約234億円)を投じてムイネー区で着工されたこの民間空港は、チャム文化の「炎の魂 – 高みを目指す願望」を哲学として掲げ、VnExpressがその詳細を報じました。
チャム文化を象徴するデザイン
ファンティエット新空港のターミナルビルは、広さ18,000平方メートル。そのデザインは、単なる現代建築に留まらず、地域の豊かな歴史と文化、特にチャム文明への深い敬意が込められています。投資家であるサン・グループによると、このデザイン思想は、ムイネー・ファンティエットが単なる観光地ではなく、深い歴史を持つチャム文明の地であるという認識に基づいています。
古塔「ポー・サー・イーヌー」がインスピレーション源
空港からわずか約10キロメートル離れた場所にある「ポー・サー・イーヌー塔」は、高さ5〜15メートル、築1200年以上の歴史を持つ国定史跡で、シヴァ神を祀っています。この古塔が、空港建築の主要なインスピレーション源となりました。ターミナルを訪れる乗客は、単に飛行機に乗るだけでなく、チャム文明の記憶に触れ、ファンティエットのアイデンティティを世界に発信する体験をすることになります。
「炎の魂」を表現する建築美
空港のデザインには、チャム文化の「炎」と「生命力」が随所に表現されています。例えば、アーチは上向きの三角形に様式化され、炎を象徴。ターミナルの主要な色調はレンガの赤で、地域の遺産とアイデンティティを想起させます。ファサードの柱は、静と動の交差点を表し、文化と経済の流れの収束と拡散を象徴しています。
さらに、ターミナル内部空間には、チャム建築の特徴である「コーベル工法」を用いた段差アーチが採用されており、力強い視覚的リズムを生み出しています。レンガが積み重なり、中心に向かって徐々に狭まる構造は、まるで絶えず動き続けるかのようで、旅人を導くトーチのイメージを彷彿とさせます。この独特の建築技術と空へ向かって伸びるアーチ、そして赤色の組み合わせが、空港に独自のアイデンティティを与えています。
象徴的な13層の屋根構造
空港の屋根構造には、象徴的な13層のアーチが採用されています。このうち12層は「完全なサイクル」を象徴し、13層目は「新たな旅への移行」を表しています。この深い意味合いを持つデザインは、訪れる人々にベトナムの歴史と未来への希望を感じさせるでしょう。
ムイネーの観光を加速させる新拠点
ファンティエット空港は、総面積543ヘクタールを超える軍民共用施設として2013年から計画が進められてきました。軍事部分は既に完成し、訓練に使用されていますが、民間部分は今後2年での完成が予定されています。運用開始後は、国内線だけでなく、不定期の国際線も受け入れることができ、ムイネー・ファンティエットへの観光客誘致に大きく貢献すると期待されています。このプロジェクトは、観光、商業、物流の促進に加え、地域に新たな雇用を創出する重要な役割を担うことになります。
ファンティエット空港のデザインは、単なる機能性だけでなく、地域の文化的アイデンティティを深く掘り下げ、それを建築で表現しようとするベトナムの観光開発における新たな潮流を示しています。これは、急速な経済成長の中で失われがちな伝統文化の価値を再認識し、それを現代のインフラに融合させることで、他国との差別化を図ろうとする戦略とも言えるでしょう。特に、チャム族の歴史が色濃く残るファンティエット・ムイネー地域にとって、この空港は地域の魅力を世界に発信する「玄関口」としての役割を強化することになります。
このような取り組みは、観光客に対し、リゾート地としての魅力だけでなく、ベトナムの豊かな歴史と多様な文化に触れる機会を提供します。空港自体が観光アトラクションの一部となり、到着した瞬間から地域の物語を感じさせることで、旅行体験の質を高める狙いがあります。在住者やリピーターにとっても、新しい空港が地域の発展と文化継承の象徴として映ることで、より一層の地域への愛着と誇りを育むきっかけとなるでしょう。
- ポー・サー・イーヌー塔(Tháp Pô Sah Inư): ファンティエット市街から東へ約7km、バ・ナイ丘に位置するチャム族の古塔。空港デザインのインスピレーション源となった場所。
- ムイネービーチ(Mũi Né Beach): ファンティエットを代表するビーチリゾート。白い砂丘や赤い砂丘、漁村など多様な景観が楽しめる。
- ファンティエット市場(Chợ Phan Thiết): 地元の食材や海鮮、お土産などが豊富に揃う活気ある市場。ベトナムの日常を垣間見ることができる。


