タイの自動車サービス大手マスター・モーター・サービスズ(MMS)は、EV市場の急速な拡大に対応するため、今後2年間で約1億バーツ(約5億円)を投じる大規模な事業構造改革「リボーン(Reborn)」を発表しました。この戦略的転換により、ファストフィット事業とEV専門の板金塗装サービスを強化し、全国的な顧客基盤の拡大を目指します。タイの主要経済紙プラチャチャート・ビジネス・ニュースが報じました。
事業再編とEV市場への注力
MMSは18年ぶりの大規模な事業再編を実施し、ブランド名を「MMSボッシュ・カーサービス・タイヤ」から「MMSセンター」へと変更。約1億バーツ(約5億円)を投じ、2026年から2027年にかけてCI(コーポレート・アイデンティティ)を一新します。この再編の背景には、タイの自動車市場における中国系EVメーカーの急速な進出と、それに伴うEV普及率の急拡大があります。タイではEV販売比率が13%に達し、BYDなどの中国勢が長年市場を支配してきた日系メーカーの牙城を揺るがしています。
ファストフィット事業の強化とXPENGとの提携
MMSは事業を主に3つの柱に再構築します。一つ目は、既存の20拠点で行う「ファストフィット」事業の強化です。タイヤ、エンジンオイル、バッテリーといった消耗品の交換を主軸とし、将来的には軽修理と重修理の比率を50%ずつとする方針です。二つ目は、電気自動車(EV)に特化した「MMSボディ&ペイント」センターの拡充です。現在ラチャプルックに1拠点ありますが、2027年までにバンコク首都圏の主要4地域に4拠点体制への拡大を計画しており、これには約6,000万バーツ(約3億円)の投資が見込まれています。特に注目すべきは、プレミアムEVブランド「XPENG(エックスペン)」タイランドとの提携です。MMSボディ&ペイントはXPENGの正規認定修理工場として、専門的な板金塗装サービスを提供。これは、タイ政府がEV充電インフラの整備を進める中で、EV関連のアフターサービス需要が高まっている現状を捉えた動きと言えます。
ドイツ製メンテナンス製品の展開と収益目標
三つ目の柱は、ドイツ製エンジンメンテナンス製品「TUNAP(チューナップ)」の販売代理店事業です。今年は環境に配慮した「グリーンプロダクツ」のラインナップを強化し、持続可能性への意識が高いEVユーザーのニーズにも応えていきます。MMSのパポン・ラッタナチャイカノン社長は、この「リボーン」戦略により、2025年の2億5,000万バーツだった収益が、2026年には2億6,000万〜2億7,000万バーツに増加し、2027年には最低でも20%の収益成長を見込んでいると述べました。これは、EV市場の成長が自動車メンテナンス業界にも大きな好機をもたらしていることを示唆しています。
高品質なEV修理サービスと全国ネットワーク
MMSボディ&ペイントのラチャプルック支店は、XPENGユーザーだけでなく、一般のEVユーザーにも対応できるよう、専門的なツールと最新鋭の塗装・乾燥ブースを備えています。月間150台以上のEVに対応可能な17の修理ベイを有し、高水準の技術で新車に近い状態への復元を目指します。修理された塗装部品には1年間の保証が付帯し、顧客はリアルタイムで修理状況を確認できるシステムも導入されています。MMSは、バンコク首都圏の主要19拠点に加え、ラヨン、パタヤ、ウボンラチャタニ、プーケット、スラートターニーといった地方都市にもサービス網を拡大しており、全国的なEVメンテナンス需要に応える体制を構築しています。
今回のMMSの事業再編は、タイの自動車市場が迎えている構造転換期を如実に示しています。長らく日系メーカーが優勢だったタイにおいて、ここ数年で中国系EVメーカーが急速に進出し、価格競争と技術革新を背景に市場シェアを大きく伸ばしています。MMSのような既存の自動車サービスプロバイダーが、EVの普及という不可逆的な流れに適応し、専門的な修理・メンテナンスサービスに大規模投資を行うことは、市場全体の成熟度を高める上で不可欠です。
在タイ日本人や日系企業にとっては、EVの選択肢が増える一方で、アフターサービスの質やネットワークが重要になります。特に、EV特有の修理やバッテリー交換など、従来のガソリン車とは異なる専門知識と設備が求められるため、MMSのような信頼できるサービス拠点の拡充は、EV利用の安心感を高めるでしょう。また、都市部だけでなく地方にもサービス網が広がることは、タイ全土でのEV普及を後押しする要因となります。


