タイ国鉄(SRT)とバンコク大量輸送公社(BMTA)は、巨額の累積債務解消に向け、全国各地の優良資産の商業開発を加速させています。両公社は、バンコク首都圏や地方都市の鉄道駅周辺の「一等地」を民間企業に貸し出し、収益を大幅に増やす計画を推進しているとプラチャーチャート・ネットが報じました。
タイ国鉄(SRT)の巨額債務と土地資産
タイ国鉄(SRT)は、129年の歴史を持つ老舗の国営企業ですが、長年にわたる累積赤字により、現在の債務は3,000億バーツ(約1兆5,000億円)にも達しています。しかし、SRTは全国に約24万6,880ライ(約3万9,500ヘクタール)もの広大な土地を所有する「政府系地主」でもあり、そのうち約3万3,761ライ(約5,400ヘクタール)は、高い商業開発ポテンシャルを秘めています。
この豊富な土地資産を活用した収益創出は、SRTの事業再生計画の核と位置付けられており、輸送サービスや貨物輸送事業に加えて、財政健全化の重要な柱となっています。タイ政府は、肥大化した国営企業の改革を推進しており、SRTもその一環として、保有資産からの収益最大化が求められています。
SRT資産管理会社による商業開発
SRTは現在、商業エリアの賃貸と管理をSRTアセット(SRTA)社に委託しており、これまでに1万2,233件の賃貸契約、総面積約3万8,469ライ(約6,150ヘクタール)の土地がSRTAによって管理されています。SRTは現在、土地賃貸から年間約42億バーツ(約210億円)の収益を得ていますが、この額を大幅に増加させることを目指しています。
特に注目されているのは、商業性の高い28区画、合計約2,855ライ(約457ヘクタール)の土地です。これらの土地の総価値は961億5,231万7,000バーツ(約4,807億6,000万円)に上り、SRTAが民間企業との共同事業や転貸を通じて、その価値を最大限に引き出す方針です。最近では、SRTの取締役会が、資産価値が5億バーツ(約25億円)を超える全国10か所の主要な土地(総資産価値約275億バーツ、約1,375億円)をSRTAに賃貸することを承認しました。SRTAは、30年間の契約期間で、これらの開発から1,000億バーツ(約5,000億円)を超える収益を見込んでおり、SRTの債務返済に大きく貢献する見込みです。
バンコクと地方を結ぶ10の主要開発区画
今回、SRTAが管理を任されることになった10の主要な土地は、タイ全土の戦略的な場所に位置しており、都市の成長と交通インフラの整備に合わせた土地利用の変化に対応するものです。以下にその詳細を示します。
- バンコク・バンスーE1区画:約21ライ(約3.3ヘクタール)、価値約15億1,600万バーツ(約75億8,000万円)。バンスー中央駅周辺の再開発の一環。
- パホンヨーティン三角地帯(セントラル・ラプラオ周辺):約46ライ(約7.3ヘクタール)、資産価値約76億400万バーツ(約380億2,000万円)。セントラルはすでに30年間の賃貸契約を更新し、約470億バーツ(約2,350億円)を投資してリニューアルを進めています。
- パホンヨーティン・サンデーマーケットおよびミックス・チャトゥチャック周辺:約10ライ(約1.6ヘクタール)、価値約16億7,600万バーツ(約83億8,000万円)。
- マッカサン駅周辺ホテル区画:約1ライ(約0.16ヘクタール)、価値約5億1,500万バーツ(約25億7,500万円)。
- パホンヨーティン・OTK角地:約6ライ(約0.96ヘクタール)、価値約3億4,800万バーツ(約17億4,000万円)。
- バンスー・クロンタン線(RCA周辺):約80ライ(約12.8ヘクタール)、価値約14億バーツ(約70億円)。現在、契約更新手続き中。
- ホアヒン・ゴルフコースおよびゴルフインホテル:約558ライ(約89.3ヘクタール)、価値約22億バーツ(約110億円)。
- メーナム駅周辺:約220ライ(約35.2ヘクタール)、価値約71億5,900万バーツ(約357億9,500万円)。
- ハジャイ駅B区画:約13ライ(約2.1ヘクタール)、価値約15億6,000万バーツ(約78億円)。
- シラアット駅:約257ライ(約41.1ヘクタール)、価値約9億4,500万バーツ(約47億2,500万円)。
運輸省の指導と収益目標
ピパット・ラチャキットプラカーン副首相兼運輸大臣は、SRTが保有する全国の土地資産を最大限に活用し、商業収益を上げることを積極的な政策として推進しています。これは、SRTの累積債務3,000億バーツという重い財政負担を軽減するための緊急措置です。SRTAを土地資産の専門管理者として位置づけ、戦略的な開発を進めることで、資産からの収益率を現在の1%から国際標準の3〜4%まで引き上げることを目標としています。
副首相は、「政府がSRTの債務を永遠に負担し続けることはできない。SRT自身が収益を上げる努力を加速する必要がある」と強調し、大規模な土地開発が目標通りの収益を生み出せれば、SRTの累積債務問題は解決可能であるとの見解を示しています。これは、タイ政府が推進する官民パートナーシップ(PPP)によるインフラ開発と国営企業改革の方向性と一致するものです。
BMTAも商業収益拡大とEV化を推進
債務問題に直面しているのはSRTだけではありません。バンコク大量輸送公社(BMTA)もまた、年間約80億バーツ(約400億円)の赤字と、1,450億バーツ(約7,250億円)の累積債務を抱えています。シリポン・アンカサクンキアット運輸副大臣は、BMTAが単に路線網を改善するだけでなく、運賃収入以外の商業収益を増やす必要があると明言しています。
BMTAは、広告スペースの活用に加え、保有する土地や高速道路公社(EXAT)、運輸公社(BAAC)の土地を活用し、12か所に電気自動車(EV)充電ステーションを開発する計画です。具体的には、サイタイマイ、ランシット、ケハサムットプラカーン、クロンバンパイ、プーチャオサミンプレ、クロンテーイ、チェンラーク、スワンサヤーム、スウィンタウォン、サイノーイ、バーンケーン、ミンブリーといった主要なバス車庫や交通拠点に設置されます。これは、タイのサービスおよびデジタル経済への転換、そして都市交通の近代化を象徴する動きと言えるでしょう。
タイの国営企業が抱える巨額の累積債務問題は、長年のインフラ整備投資と非効率な経営構造に起因しています。今回の土地開発加速は、政府が肥大化した国有企業の財政健全化を目指す上で、その豊富な土地資産を有効活用するという構造改革の一環と捉えられます。特に、鉄道網や公共交通機関の整備は国の最重要政策課題であり、その資金を自己調達する動きは、政府の財政負担を軽減しつつ、持続可能な経済成長を促す狙いがあるでしょう。
この動きは、バンコクおよび主要地方都市の不動産市場に大きな影響を与える可能性があります。駅周辺の「一等地」が商業開発されることで、住宅、オフィス、商業施設の供給が増加し、都市の魅力と利便性が向上する一方で、一部エリアでは地価や賃料の上昇を招くかもしれません。在住日本人にとっては、新たな商業施設の登場や交通インフラの改善による生活の質の向上という恩恵がある反面、将来的な物価上昇や居住コストの変動に注意が必要です。また、BMTAによるEV充電ステーションの拡大は、タイにおけるEVシフトの加速と、それに伴う都市交通の変化を示唆しています。


