ベトナム中部高原のザーライ省人民委員会は、観光振興と景観保全のため、62ヘクタールを超える広大な茶畑の維持を決定しました。これは、不採算となっていた茶畑の一部をコーヒー栽培に転換しようとするビエンホー茶株式会社の提案に対し、歴史的・文化的価値を重視した判断です。地元メディアVnExpressが報じており、地域の持続可能な発展に向けた新たな一歩として注目されています。
不採算事業からの転換と観光への期待
ザーライ省人民委員会は以前、ビエンホー茶株式会社が所有する607ヘクタールの茶畑の民営化を承認し、土地賃貸契約の締結と土地使用権証明書の発行を進めていました。このうち299ヘクタールが茶畑、250ヘクタールがコーヒー畑、残りが工場や事務所などの敷地となっています。
しかし、近年の茶生産は非効率で販売も振るわず、累積損失が増加するリスクがあったため、2025年6月までに約236ヘクタールの不採算茶畑をコーヒー栽培に転換することが合意されました。これは、農業生産基盤の効率化と土地生産性向上のための構造転換の一環と見られています。
歴史と文化が息づく茶畑の景観
一方で、省人民委員会は、景観と観光のために約62ヘクタールの茶畑を維持するよう同社に命じました。この決定は、茶畑が単なる農地ではなく、ザーライ省の重要な観光資源であることを示しています。
実際に、この62ヘクタールに含まれる茶畑の小作農家たちは、ヤー・ルー湖周辺の約40ヘクタールもコーヒー栽培に転換するよう追加で要請していました。しかし、ズオン・マー・ティエップ副人民委員長は、樹齢100年の松林、ブーミン寺、ヤー・ルー湖と一体となった茶畑の景観が、歴史的、文化的、観光的に極めて価値の高い「特徴的な景観空間」であると判断し、現状維持を決定しました。
地域開発計画における重要性
この茶畑エリアは、2050年までのビエンホー・チュー・ダン・ヤー観光区の総合計画策定範囲内に位置しています。この計画は、観光を地域の主要な経済活動の一つと位置づけ、茶畑の景観は持続可能な地域開発の核として期待されています。
今回の決定は、農業の経済的効率性だけでなく、地域の文化遺産と観光ポテンシャルを考慮したものであり、経済性と環境・文化保全のバランスを取ろうとするベトナムの政策を示す事例と言えるでしょう。農村空間の商品化が進む中で、いかにして地域の独自性を守りながら発展していくかが問われています。
今回のザーライ省の決定は、ベトナムの地方経済が直面する構造的課題を浮き彫りにしています。伝統的な農業生産だけでは収益を確保することが難しくなり、土地生産性の向上や、観光業など新たな価値創出への転換が求められている状況です。茶畑をコーヒー畑に転換する動きは、経済合理性に基づくものであり、農業セクター全体の効率化と持続可能性を追求する流れと捉えられます。
一方で、地域が持つ歴史的・文化的価値や景観を観光資源として保護しようとする動きは、在住日本人や旅行者にとって、ベトナムの多様な魅力を再発見するきっかけとなるでしょう。単なる生産地としてではなく、その土地固有の物語や美しさを守り、体験を提供するという視点は、地方都市の隠れた魅力を引き出し、より深い旅行体験を求める層にとって、魅力的なデスティネーションとなり得ます。経済発展と環境・文化保全のバランスをどう取るか、その試みが今後も注目されます。


