サムスン電子が中国の家電市場から撤退する意向を示している。今年中の撤退を目指し、既に中国の従業員やビジネスパートナーに情報が伝えられ、4月末にも正式決定する可能性がある。日経が報じたところによると、在庫処分を進め、半導体やスマートフォン事業に注力する方針だ。
中国市場からの撤退背景と戦略転換
サムスン電子の中国家電市場からの撤退は、現地ブランドとの激しい競争、特に価格競争の激化が背景にある。Business Koreaによると、これは中国国内の低価格家電製品との「消耗戦」を避け、同社がより自信を持つ高付加価値製品分野に集中するための戦略と理解されている。日経も同様に、中国の競合他社は価格が安いだけでなく、製品の品質も向上させており、本国だけでなく世界規模で韓国や日本のメーカーと直接競争していると指摘する。
中国家電市場の現状と国際ブランドの苦戦
中国の調査会社Runto Technologyによると、昨年同国で出荷された3289万台のテレビのうち、サムスンを含む国際ブランドは100万台にも満たなかった。さらに、Euromonitorのデータでは、中国のハイセンス(Hisense)とTCLの2社が、2025年には世界のテレビ販売の31.9%を占め、韓国のサムスンとLGの合計市場シェア30.4%を上回ると予測されている。インドの市場調査会社Mordor Intelligenceによると、冷蔵庫、洗濯機、エアコンなどの大型家電市場は、2026年には875.5億ドル規模に達し、2031年には1000億ドルを超える見込みで、売上高トップ5は全てハイアール(Haier)、ミデア(Midea)、グリー(Gree)、ハイセンス、TCLといった国内ブランドが占めている。中国消費者の国内電子製品への嗜好の高まりも、国際ブランドにとって大きな課題となっている。
サプライチェーン再編と日本企業の先行事例
人工知能(AI)ブームが半導体価格を押し上げ、家電業界にも影響を与えているが、価格競争力では韓国企業が中国企業に劣る状況だ。Korea Timesによると、サムスンは中国における家電およびテレビの流通ネットワークに関して様々な選択肢を検討しており、先月には幹部が上海を訪れて状況を評価した。LG電子のオンライン事業を買収したJDとサイフェ・オペレーションズ(Syfe Operations)が引き継ぎを検討していると報じられている。
サムスンは、中国メーカーの台頭を背景に、かつて日本を代表する電子機器メーカーが辿った道を追っている。2017年にはハイセンスが東芝のテレビ事業を買収し、先月にはソニーがテレビ事業の51%とマレーシアの工場をTCLに売却した。こうした動きは、多国籍企業がリスク分散を目的に製造拠点を中国からASEANへと多角化するグローバルサプライチェーンの潮流とも一致しており、アジアにおける家電産業の再編が進んでいることを示している。
サムスン幹部の見解と今後の戦略
4月15日にソウルで開催されたイベントで、サムスンのディスプレイ事業責任者であるヨン・ソクウ(Yong Seok-woo)氏は、中国での競争圧力があることを認めた。同氏は様々な選択肢を検討していると述べたものの、市場からの再編や撤退に関する憶測は否定した。しかし、昨年のサムスン全体の連結売上高において、家電およびテレビ部門は半導体とスマートフォンに次ぐ第3位の17%を占めたものの、2025年にはこの部門で史上初の営業損失2000億ウォン(約220億円)を記録する見通しで、2024年の1兆7000億ウォンの利益から大きく転落する。ヨン・ソクウ氏は事業の安定性を強調し、「ハードウェア分野は競争や地政学的な要因による圧力を受けているが、ディスプレイ事業は一部で懸念されているような困難には直面していない」と述べた。Korea Timesによると、サムスンの幹部は中国での計画について「状況はまだ変化しており、検討中だ」と語っている。
米国市場と高付加価値戦略への注力
日経によると、サムスンは中国からの撤退後、高価格帯製品と米国市場に注力することで収益性を回復することを期待している。同社は今年を「AIテレビが普及する年」と位置づけ、音声コマンドで情報を表示できる新しいAIテレビシリーズを発表したばかりだ。また、6月に開幕するFIFAワールドカップを前に、テレビの買い替えを検討している米国家庭をターゲットにしている。Mordor Intelligenceのデータでは、サムスンは2025年の米国テレビ販売額で首位に立ち、冷蔵庫や洗濯機でも高い市場シェアを維持している。米国の関税が利益に影響を与える可能性はあるものの、サムスンの家電部門幹部は、南米を含む世界中の工場を活用するなど、コスト削減のための解決策を見つけると述べている。
グローバル事業再編と拠点集約
サムスンはグローバルな家電事業の再編を進めており、効率の悪い食器洗い機や電子レンジの生産ラインを閉鎖し、外部委託に切り替える可能性も検討している。また、従業員に対しては、1989年から重要な海外生産拠点であったマレーシア工場の閉鎖を含む事業合理化計画を提示している。これは、グローバルサプライチェーンの最適化と、より競争力のある生産体制への移行を目指す動きの一環だ。
サムスン電子の中国家電市場からの撤退検討は、現地ブランドとの競争激化という構造的な課題を浮き彫りにしています。中国市場で事業を展開する、あるいは進出を検討している日系企業にとっては、価格競争に巻き込まれないための明確な差別化戦略の重要性を示唆するものです。また、多くの多国籍企業が製造拠点を中国からASEANへと多角化している潮流と一致しており、ベトナムやタイといった地域に既に進出している日系企業にとっては、新たなビジネス機会と同時に競争の激化をもたらす可能性も秘めています。
このサムスンの戦略転換は、アジアにおける製造業のサプライチェーンが大きく変化していることを示しています。提供された背景データが示すように、ASEAN諸国はグローバルサプライチェーンの重要拠点としての地位を確立しつつあり、外国直接投資の主要な受け皿となっています。中国からの生産移転は、単にコスト削減だけでなく、地政学的リスク分散や市場の多様化を目的としており、家電産業においても今後、東南アジアにおける現地化と生産拠点集約が加速する構造的な変化が予想されます。


