ベトナムの大手民間銀行サコムバンク(Sacombank)は、グエン・ドゥック・トゥイ氏が副頭取に就任したことを発表しました。同銀行は20年以上にわたりホーチミン市で開催してきた年次株主総会を初めてフー・トー省で実施し、経営陣の刷新と大規模な改革を推し進めています。VnExpressが報じたところによると、この人事は同行の長期戦略に大きな影響を与える見通しです。
主要人事と戦略転換
4月22日、サコムバンクは株主総会で、グエン・ドゥック・トゥイ氏を新たな取締役メンバーに選任し、その後、取締役会は同氏を常任副頭取に任命しました。トゥイ氏は、銀行の戦略指導、上級管理、および長期的な発展方向を直接担当します。同時に、ロイク・フォシエ氏が代理総支配人に就任し、銀行の運営業務を統括することになりました。
この人事は、ベトナムの金融システム全体が市場経済への改革と国際経済統合を進める中で、銀行セクターの健全化と競争力強化が求められている背景にあります。特に不良債権問題に直面する銀行が多く、資本増強やガバナンス強化が喫緊の課題とされています。
フー・トー省開催と株主参加状況
サコムバンクの年次株主総会は、これまで20年以上にわたりベトナム経済の中心地であるホーチミン市で開催されてきましたが、今年は初めてフー・トー省で開催されました。この場所変更により、昨年の約1,000人から今年は約135人の株主および代理人の出席にとどまり、議決権株式総数の約80.6%を占める結果となりました。ホーチミン市は国営企業や多国籍企業のオフィスが多数存在するベトナム経済の中心地であり、株主総会の場所変更は、サコムバンクの新たな経営戦略の一環と見られています。
不良債権問題と再編の課題
株主総会では、サコムバンクの取締役会メンバーであるファン・ディン・トゥエ氏が、株主からの質問に回答しました。トゥエ氏は、元実業家トラム・ベー氏に関連する株式の処理が同行の再編を完了するための最重要課題であると述べましたが、その進捗はベトナム国家銀行の承認にかかっており、政策変更の阻害要因により承認が遅れていると説明しました。同行は今年中の完了を期待しているものの、長期化する可能性も排除していません。
2025年、サコムバンクの不良債権比率は 5%超に上昇しました。トゥエ氏によると、これは世界経済の困難、企業、特に中小企業に影響を与える税制政策、そして債務再編メカニズムの停止により、融資が分類変更され引当金計上が必要になったことが原因です。ベトナムの銀行セクターは、経済成長の恩恵を受けつつも、不良債権問題という構造的な課題に長年苦しんできました。金融庁の報告書にもあるように、銀行への信頼度が低かった時代を経て、市場経済化とともに金融深化が進む中で、不良債権処理はベトナムの金融システム全体の健全性にとって不可欠な要素となっています。
2025年の業績と今後の目標
2025年のサコムバンクの純営業収益は32兆ドン(約1,920億円)を超えましたが、営業費用は約13兆ドン(約780億円)を計上し、CIR(経費率)は40.7%に減少しました。しかし、同行の代表者は、この水準が業界平均と比較してまだ高いことを認めました。第1四半期の純利益は3兆5,720億ドン(約214億円)で、年間計画の約40%に相当します。
同行は、2026年にはCIRを30%未満に、そしてそれ以降は28%を目指すとしています。2025年第4四半期には信用リスク引当金を大幅に積み増した結果、同行は9年ぶりに利益が 40%減となりました。これは、市場リスクが増大する中で、リスク管理に対する慎重な姿勢を示し、防衛力を高め、滞留資産の処理において主導権を確保するためと説明されています。
今年のサコムバンクは、税引前利益を 6%増の8兆1,000億ドン(約4,860億円)に引き上げることを目標としています。不良債権比率は4.5%未満に抑制し、年末の総資産は 10%増の100万億ドン(約6兆円)以上、融資残高は12%増の69兆9,400億ドン(約4兆1,964億円)、総預金は10%増の92兆1,300億ドン(約5兆5,278億円)を目指します。これらの目標は、リスク耐性を強化するための慎重な計画に基づいて設定されており、ベトナムの金融システム全体の安定化に向けた動きと連携しています。
社名変更と本社移転の動き
株主総会では、1991年の設立以来使われてきた「サイゴン・トゥオン・ティン銀行」から「サイゴン・タイ・ロック銀行」への社名変更が承認されました。略称の「Sacombank」も「SACOMBANK」に変更されます。経営陣は、これを重要な転換点と位置付け、新たな戦略と発展方向を示すものとしています。
さらに、現在のホーチミン市3区にある本社は、ホーチミン市の国際金融センターの中核地域に位置していないため、発展方向と合致させるために本社移転が必要であると表明されました。ホーチミン市がベトナム経済の中心地であり続ける中で、金融機関のインフラ整備も進んでおり、戦略的な本社配置は今後の成長に不可欠と考えられています。
今回のサコムバンクの人事刷新と大規模な改革は、ベトナムの銀行セクターが直面する構造的課題と、市場経済化の深化に伴う競争激化への対応を色濃く反映しています。長年問題視されてきた不良債権の処理や、国際的な金融自由化コミットメントへの対応は、ベトナム政府および国家銀行にとって喫緊の課題であり、サコムバンクのような民間大手銀行の改革は、国全体の金融システム健全化に直結します。特に、トラム・ベー関連株の処理が国家銀行の承認待ちである点は、ベトナムにおける金融機関のガバナンスと政府の監督体制の複雑さを示唆しています。
在住日本人や日系企業にとって、ベトナムの金融市場の動向は、投資環境や資金調達、そして経済全体の安定性に直接的な影響を及ぼします。サコムバンクが不良債権比率の上昇という逆境の中で、利益目標を掲げ、社名変更や本社移転といった大規模な改革を進めることは、ベトナム経済の成長ポテンシャルと同時に、リスク管理の重要性を再認識させるものです。今後、ベトナムの金融システムがどのように変革し、国際的な基準に適合していくかは、ビジネス戦略を立てる上で注視すべき重要な要素となるでしょう。


