ホーチミン市建設局は、デマンド応答型交通(DRT)モデルの試験運用を提案しました。これは、アプリで利用する小型車両が需要に応じて柔軟に運行し、大型バスがアクセスしにくい狭い路地や住宅地での公共交通網を補完する狙いがあります。VnExpressが報じたところによると、この新たな交通システムは、ホーチミン市の交通渋滞緩和と利便性向上に貢献すると期待されています。
ホーチミン市に新交通DRTモデル導入へ:狭い路地対策の切り札
ベトナム最大の商業都市ホーチミン市では、建設局がデマンド応答型交通(DRT)モデルの試験運用を提案しました。DRTは小型車両を使用し、従来の大型バスが進入困難な住宅地の狭い路地や、主要交通機関から離れた地域での移動手段として導入が検討されています。このモデルは、固定されたルートや時間で運行する従来のバスとは異なり、利用者の実際の需要に基づいてルート、時間、乗降場所を柔軟に調整する点が特徴です。
この新システムは、既存のバスや地下鉄網を補完することを目的としており、公共交通へのアクセス距離を短縮し、サービス範囲を拡大することで、より多くの市民が公共交通を利用するきっかけとなることが期待されています。特に、ホーチミン市内の多くの市民が暮らす路地裏地域にとって、利便性の高い移動手段が提供される可能性があります。
アプリで利用する柔軟な運行システム
提案によると、DRTの初期段階は、ホーチミン国家大学、市中心部、そしてベンタイン – スオイティエン地下鉄駅周辺など、特定のエリアで小規模に展開される予定です。運行は時間帯によって柔軟に変化し、ピーク時には固定されたルートと停留所を設け、オフピーク時には利用者の需要に応じたオンデマンドサービスに切り替わります。
利用者はスマートフォンアプリを通じて乗車を予約し、システムは類似の経路を持つ利用者を自動的にグループ化して配車します。乗降場所は事前に登録された「仮想停留所」で、予約から配車、支払い、データ保存まで全てのプロセスがデジタルプラットフォーム上で完結します。導入される車両は12人乗り程度の小型車が想定されており、運行状況を監視するための装置が搭載され、運行センターと連携して管理される予定です。
専門家が期待する公共交通のアクセス改善
ホーチミン工科大学交通工学部の元学部長であるファム・スアン・マイ准教授は、DRTが市の公共交通の空白地帯を埋める上で貢献できると指摘しています。同氏によると、ホーチミン市の住民の約85〜86%が、大型バスがアクセスしにくい狭い路地や住宅地で生活し、働いています。多くの住民がバス停まで500メートル以上歩く必要がある一方、一般的に求められる距離は200メートル未満であるため、小型車両による乗り換えサービスが公共交通をより身近なものにすると述べています。
また、ホーチミン市旅客輸送協会のレ・チュン・ティン会長も、DRTの運賃が現行バスと同程度であれば、そのアクセス性の高さから利用者を惹きつける可能性があると見ています。小型車両の利用は投資コストの削減にも繋がり、運送事業者の参入を促す効果も期待されます。同氏によれば、「小型車両は大型バスに比べて満席になりやすく、運行効率の向上に繋がる」とのことです。
テクノロジー配車サービスとの競争と差別化戦略
DRTは、利用者がアプリを通じて予約する点で、既存のテクノロジー配車サービスやタクシーと類似しています。しかし、レ・チュン・ティン会長は、DRTが特定の範囲内で運行し、登録された乗降場所を持つこと、そして厳格な管理下にあることから、依然として公共旅客輸送サービスであると強調しています。
一方、OCGジャパンのファン・レー・ビン代表は、DRTが多くの国で導入されているものの、利用目的は様々であると指摘します。日本では、DRTは主に、バス停まで歩くのが困難な高齢者向けの移動手段として活用されています。同氏は、ホーチミン市においては、DRTを公共交通への接続が不十分な地域を支援する「乗り換えサービス」として位置づけるべきであり、ドアツードアで迎えに来るテクノロジー配車サービスやタクシーと直接競合すべきではないと提言しています。DRTがその効果を最大限に発揮するためには、主要なバス路線や地下鉄との便利な接続を確立することが不可欠です。
DRT導入における課題と今後の展望
DRTの導入には、いくつかの課題も指摘されています。専門家は、小型車両を狭い路地に深く導入することについて、慎重な検討が必要だと警鐘を鳴らしています。多くの路地は道幅が狭く交通量が多いため、部分的な渋滞や見通しの悪い交差点での事故のリスクが高まる可能性があります。また、仮想停留所の配置は、地域住民の生活に与える影響を最小限に抑えるよう配慮する必要があります。
ファム・スアン・マイ准教授は、ホーチミン市が「違法バス停」の発生を防ぐため、仮想停留所の厳格な管理メカニズムを確立する必要があると強調しています。これには、テクノロジー、監視インフラ、そして法的制裁の連携が求められます。現在、ホーチミン市には180路線、2,400台以上のバスがあり、その多くが20〜60人乗りですが、幹線道路を中心に運行しているため、路地裏や住宅地の住民はバス停まで遠いという問題に直面しています。DRTは、この長年の課題を解決する有望な解決策として期待されています。
ホーチミン市の公共交通網は、幹線道路を主体とした大型バス路線が中心であり、都市部に数多く存在する狭い路地や住宅密集地へのアクセスが長年の課題でした。市民の多くが個人バイクを利用する背景には、まさにこの公共交通の「ラストワンマイル」問題が横たわっており、DRTの導入提案は、このような都市構造に起因する交通課題への適応策として注目されます。
日本の事例ではDRTが高齢者向けの移動支援に活用されている点も興味深いところです。ベトナムでも少子高齢化が進みつつある中で、将来的にDRTは高齢者や交通弱者の移動手段として、より重要な役割を担う可能性があります。これは、VnExpressが報じたこのニュースの背景にある、都市の持続可能性と社会包摂性という視点からも重要な意味を持つでしょう。


