ベトナムの大手乳製品メーカーVinamilk(ビナミルク)が、消費者の購買力支援のため、価格の安定を優先する方針を表明しました。これは、購買力低迷が続くベトナム市場において、消費者の負担を軽減し市場回復を支援するためであり、VnExpressの報道によると、同社のマイ・キエウ・リエン総監督が株主総会で言及しました。
購買力低迷と価格安定策
Vinamilkのマイ・キエウ・リエン総監督は、4月22日にホーチミン市で開催された年次株主総会で、価格安定を最優先する方針を強調しました。購買力の低迷が続く現状では、価格の急激な上昇は消費者の負担を一層重くするため、同社は価格調整を行う場合でも、その上昇幅を2~3%程度に抑制する考えを示しています。これは、ベトナム経済が市場価格の状況や為替変動など、様々なリスクや不確定要素に直面する中で、消費者の購買意欲を維持するための重要な戦略です。
乳製品市場の厳しい現状
同総監督によると、2024年第1四半期のFMCG(日用消費財)市場全体は前年同期比で4.3ポイント改善したものの、乳製品業界だけを見ると、依然として約3.7%のマイナス成長が続いています。不安定な地政学的変動が予測困難な状況に加え、購買力の本格的な回復には時間がかかるとの見通しが示されました。特に2025年は、需要の2.4%減少、原材料コストの上昇、激しい競争、そしてVinamilk自身の内部再編が重なる「試練の年」となると分析されています。これは、世界経済の潮流や市場動向がベトナムの国内産業にも色濃く影響していることを示しています。
Vinamilkの堅調な業績と将来目標
厳しい市場環境にもかかわらず、Vinamilkは堅調な成長を維持しています。2023年の連結売上高は前年比3.1%増の63兆7240億ドン(約3,823億円)を記録し、これは過去最高水準です。税引き後利益は9兆4140億ドン(約565億円)とわずかに減少しましたが、四半期ごとに改善傾向が見られます。2024年の目標としては、連結売上高66兆4770億ドン(約3,988億円)、税引き後利益9兆8280億ドン(約590億円)を掲げ、前年比約4%の増収増益を目指しています。
また、2024年第1四半期の実績は、連結売上高が16兆1780億ドン(約971億円)、税引き後利益が2兆4580億ドン(約147億円)となり、それぞれ前年同期比で24.7%と55%近い大幅な増加を達成しました。配当については、2023年は1株あたり4,350ドン(約26円)を支払い、2024年も税引き後利益の最低50%を配当する方針です。
株価と輸出市場への対応
株主からの株価低迷に関する懸念に対し、マイ・キエウ・リエン総監督は、株価は市場の需給、企業の業績、そして持続可能な発展の見通しに依存すると説明しました。中東情勢の緊張は輸出活動に影響を及ぼし、輸送期間の長期化や物流コストの増加を招いています。Vinamilkは、これに対し輸送ルートの調整やパートナーとの連携、供給元の多様化を図ることで、安定した原材料調達と納期確保に努めています。国際市場では、中東が連結売上高の約7.7%を占め、2023年と2024年第1四半期には2桁成長を記録。中国市場も消費者の嗜好に合わせた製品開発により、20%以上の成長を達成しました。
ベトナム乳製品市場の長期展望
Vinamilkの経営陣は、ベトナムの乳製品市場には依然として大きな成長余地があると評価しています。豊富な人口規模と高齢化の進展に伴い、栄養に対する需要は今後も高まると予測されています。特に、植物性ミルク、大人向け栄養製品、プロバイオティクス製品、高タンパク質製品などの分野は、市場全体の平均を上回る成長が期待されており、伝統的な乳製品も安定した需要を維持する見込みです。これは、ベトナムにおける市場経済化と貿易・投資の対外開放が進む中で、消費者の健康意識や食品安全性への関心が高まっていることとも合致しています。
同社は今後も、生産・流通システムの強化、牛群規模の拡大、経営管理能力の向上に投資を続け、持続可能な成長基盤を確立していく方針です。ベトナムの人口増加や高齢化、経済発展に伴うライフスタイルの変化は、乳製品を含む食品市場全体の拡大を後押しすると考えられています。
Vinamilkの価格安定策は、ベトナム在住者や日系企業にとって、生活コストや事業計画を立てる上で朗報と言えるでしょう。特に食品価格の変動は家計やレストラン経営に直結するため、国内最大手企業が価格安定を優先する姿勢は、消費者心理の安定に寄与し、市場全体の回復を後押しする可能性があります。
背景には、ベトナム経済が市場経済化と対外開放を進める中で、消費者の購買力が経済成長の重要な原動力となっている構造があります。しかし、地政学的な変動や国際的なサプライチェーンの混乱が国内物価に影響を与えやすく、企業は消費者支援と利益確保のバランスを取る難しい舵取りを迫られています。Vinamilkの戦略は、短期的な収益よりも長期的な市場シェアと顧客基盤の維持を優先するという判断の表れと見ることができます。


