タイの主要商業施設デベロッパーであるサイアム・ピワットは、世界の富裕層顧客を取り込むため、「ボーダレス・ラグジュアリー」戦略を強化すると発表しました。ベルモンド(LVMHグループ)を含む4つの世界的パートナーとの提携を通じて、タイを新たなラグジュアリー・デスティネーションへと変革し、長期的な経済効果を狙います。この戦略的な動きは、カオソッド紙が報じました。
バンコクのラグジュアリー市場を牽引するサイアム・ピワット
サイアム・ピワットは、サイアム・パラゴン、サイアム・センター、サイアム・ディスカバリーといったバンコクの象徴的な商業施設を所有・運営し、アイコン・サイアムのパートナーの一員でもあります。同社はタイ国内の超富裕層(Ultra High Net Worth)顧客を5,000人以上抱え、これは国内市場の半数以上に当たります。また、タイ国内ラグジュアリー市場の売上約70%を占めており、そのリーダーとしての地位を確立しています。
同社の内部データによると、2022年から2025年にかけて、超富裕層顧客の数は50%以上増加しており、この顧客層がサイアム・ピワット系列の商業施設全体の売上の80%を占めていることが明らかになっています。タイ全体では、年間1,000万バーツ(約5,000万円)以上を商業施設で消費する超富裕層が約9,000人存在すると推定されています。
世界的パートナーシップで「グローバル・ラグジュアリー・エコシステム」を構築
サイアム・ピワットは、この地位をさらに強化するため、4つの世界的パートナーとの戦略的提携を発表しました。提携先は、LVMHグループ傘下の高級ホテル・鉄道・リバークルーズブランド「ベルモンド」、フランスの老舗百貨店「ギャラリー・ラファイエット」、富裕層向けライフスタイルサービスを提供する「インシグニア」、そしてプライベートジェットサービスを提供する「Mジェッツ」です。この提携により、同社は「グローバル・ラグジュアリー・エコシステム」を構築し、タイを世界有数のラグジュアリー・デスティネーションへと押し上げることを目指しています。
サイアム・ピワットの顧客セントリシティ&リレーションシップ担当副マネージングディレクターであるサラントーン・アサウェート氏によると、超富裕層顧客はもはや単なるショッピングだけでなく、旅行、休暇、パーソナルサービス、そして世界中で利用できる特別な特典といった「ライフスタイル体験」を求めているといいます。
富裕層が求める「体験」重視の特権プログラム
今回の新しいプログラムの重要な転換点は、従来の割引やポイントといった「特権」から、顧客の行動データに基づいたパーソナライズされた体験を提供する「体験型特権(Experience-based Privilege)」への移行です。サラントーン氏は「顧客一人ひとりのライフスタイルは異なり、重要なのは割引ではなく、それぞれの生活に合ったパーソナライズされた体験を創造することです」と強調しています。
この戦略は、タイ市場における「ゲームチェンジャー」となることを目指しており、サイアム・ピワットだけでなく、タイ全体の富裕層向けサービス水準を向上させ、世界中の超富裕層顧客に対応できる体制を整えることを目的としています。
タイを世界のラグジュアリー拠点へ:成長する富裕層市場
インシグニアのプレジデントであるナダ・ルヴィエール氏は、現在、タイがアジアだけでなく、世界でもトップクラスのラグジュアリー・デスティネーションとして台頭していると指摘しています。シンガポールが金融やファミリーオフィスで強い一方、ラグジュアリー・ライフスタイルにおいてはタイが重要な中心地となりつつあります。
インシグニアがケアする世界中の超富裕層顧客(約700家族、うち100家族は資産3,000万米ドル=約47億円以上)は、高度なプライバシーとシームレスなサービスを求めています。彼らはどこにいても「自宅にいるような感覚」を重視するといいます。特に、これまで南ヨーロッパへ旅行していた中東からの富裕層旅行者が、今年に入ってタイおよびアジアへの渡航を大幅に増やしている傾向が見られるとのことです。
サラントーン氏は、「ボーダレス・プリビレッジ」は短期的なプロジェクトではなく、タイを地域のラグジュアリーハブへと推進する長期的な戦略であると強調しました。これは、単なる売上増加だけでなく、世界中の潜在的な顧客からタイに莫大な資金を呼び込み、タイを世界のラグジュアリー市場における重要な磁石とすることを目指しています。
タイの富裕層向け市場の成長は、在住日本人や日系企業にとっても重要な示唆を与えます。特に、高付加価値サービスや体験型消費への需要の高まりは、単なる商品販売だけでなく、顧客のライフスタイル全体に寄り添うビジネスモデルの構築が求められていることを示唆しています。高級レジデンスや医療ツーリズム、質の高い教育サービスなど、富裕層の多様なニーズに応える事業展開が、今後のタイ市場での成功の鍵となるでしょう。
この動きは、タイ政府が観光庁を通じて「高付加価値旅行」を成長戦略の柱と位置付けていることと軌を一にしています。富裕層向けの長期滞在ビザ(LTRビザ)導入など、国を挙げて世界の富裕層を誘致する政策が進められており、サイアム・ピワットのような財閥系企業がそれに呼応する形で投資を強化しています。タイが金融ハブとしてのシンガポールや新興市場としてのベトナムとは異なる、「ラグジュアリー・ライフスタイル」のハブとしての地位を確立しようとしている構造が見て取れます。


