タイの主要米ブランド「チャット米」が、輸出市場の縮小を見据え、革新技術と高付加価値戦略で20%以上の成長を目指しています。プラチャチャート紙の報道によると、インドの市場復帰やASEAN諸国の輸入減少により、2026年のタイのコメ輸出量は前年比で減少する見通しです。
タイのコメ輸出市場、競争激化と構造転換の必要性
チャット米の事業責任者であるティティ・ルチンタノン氏によると、タイの2026年コメ輸出量は、2025年の790万トンから700万トンに減少すると予測されています。これは、各国の豊作による価格競争の激化に加え、主要輸入国であるインドネシアやフィリピンが輸入を減らしているためです。タイはかつて「世界の台所」として外需に大きく依存してきましたが、JICAの分析ペーパーが指摘するように、労働人口の減少に対応した高付加価値型経済構造への転換が急務となっています。
チャット米、高品質・高付加価値戦略で活路を開く
CPインター・トレード(チャット米の親会社)は現在、年間約100万トンのコメを取り扱っており、その70%以上が輸出向けです。主な輸出先は米国やカナダなどの北米市場で、これらはタイのプレミアム米が強い地位を保つ市場です。欧州、アフリカ、中東もこれに続きます。インドやベトナム、ミャンマーといった競合国が低コストで価格競争を仕掛ける中、タイは価格ではなく、「品質」「革新」「消費者のニーズに応える製品」で競争する方向へ舵を切る必要があります。これは、タイ政府が推進するBCG(バイオ・循環型・グリーン)経済やSカーブ・クラスター開発政策とも合致する動きです。
健康志向と持続可能性を追求した新製品ラインナップ
チャット米の戦略は、高級ジャスミン米に限定されません。ジャスミン米に近い柔らかさと美味しさを持ちながら、より手頃な価格帯のプレミアム白米や、健康志向の消費者に向けた低GI米(コ・コー43号など)、そして環境に配慮した低炭素米(「ラク・ローク米」)など、多様な製品開発を進めています。これは、農業の高付加価値化と環境に配慮した持続可能な農業への移行を目指すタイの政策とも連動しています。
AIとデータサイエンスが支えるサプライチェーン革新
同社は、サプライチェーン全体にわたるテクノロジー導入を強化しています。上流では、消費者のニーズに合わせた品種選定と開発を重視。中流では、データサイエンスとAI(人工知能)を活用し、工場や精米所の生産管理を最適化することで、コスト削減と効率向上、そして競争力のある価格設定を実現しています。下流では、小分けパックや再封可能なパッケージなど、消費者にとって利便性の高い製品や包装の開発を進めるほか、乾燥麺や米粉製品、さらにレトルト米、ビタミン強化米、プロテイン強化米、米ぬか油といった高付加価値加工食品への展開も模索しています。
国内市場の潜在力と積極的な成長戦略
チャット米の事業において、国内市場は年間30万~40万トンを占め、輸出市場(年間約70万トン)より規模は小さいものの、より速い成長が見込まれています。タイ経済全体が中進国の罠から脱却し、内需主導の高付加価値型経済への移行を目指す中で、同社は国内市場の潜在力を最大限に引き出す戦略を展開。これらの取り組みにより、2026年には20%以上の成長を達成することを目標としています。
タイのコメ産業が直面する課題は、単なる価格競争の激化だけではありません。JICAの分析が示すように、タイ経済は「中進国の罠」を乗り越え、より高付加価値な産業構造への転換が求められています。チャット米の戦略は、まさにこの国家的な課題に応えるものであり、農業セクターがイノベーションと品質で競争力を高めるモデルケースとなり得るでしょう。
在住日本人や日系企業にとっては、タイの食料品市場における「高品質」「健康志向」「持続可能性」といったトレンドが加速していることを示唆します。これは、食品関連ビジネスにおける新たな商機や、消費者の購買行動の変化を理解する上で重要な情報です。特に、環境配慮型製品や機能性食品への需要の高まりは、今後の市場戦略を練る上での鍵となるでしょう。


