ホーチミン市でコンサートツーリズム推進のため、ベトナムの大手2社が7年間の戦略的提携を発表しました。エンターテイメント大手のダットベトバック・グループ・ホールディングスと、観光大手のサイゴンツーリスト・グループが手を組み、体験型エンターテイメントと観光を融合した新たな文化産業の発展を目指します。VnExpressが報じたところによると、この提携は若年層の消費拡大と地域経済の活性化に大きく貢献すると期待されています。
ホーチミンで広がるコンサートツーリズム
ダットベトバック・グループ・ホールディングスとサイゴンツーリスト・グループは、5月18日の調印式で、ホーチミン市における「コンサートツーリズム」(音楽イベントと連携した観光)と「体験型エンターテイメント」モデルの開発に注力することを明らかにしました。これは、世界の多くの国々で人気アーティストのコンサートが観光客誘致の主要な動機となり、宿泊、飲食、交通サービスなどの成長を牽引している最新のトレンドです。
この提携において、ダットベトバックはコンテンツ、コンサート、アーティスト、ファンコミュニティの提供を担い、一方のサイゴンツーリストは、充実したホテル、リゾート、会議センターのネットワークを活用し、インフラと運営能力を提供します。両社はホーチミン市で、インタラクティブLEDスクリーンシステム、イベント展示センター、そして特に「アーティスト博物館」といった革新的な協力モデルを展開する予定です。テト(旧正月)のフラワーロード、コンサートシリーズ、ファンミーティングなどの定期的なイベントは、ホーチミンを訪れる観光客の滞在期間と消費額を増やすことが期待されています。
国内アーティストを主役に
この取り組みの大きな特徴は、海外の有名アーティストではなく、国内のアーティストが主導する音楽イベントに焦点を当てる点です。ダットベトバックは、ベトナムの観客は自国のアーティストに対して強い誇りを持っているにもかかわらず、これまで市場が十分に発展していなかったため、その愛情を十分に表現する機会がなかったと指摘しています。
しかし、近年のエンターテイメント番組の発展により、高いスキルと魅力を兼ね備えた新世代のアーティストが育成され、状況は変化しつつあります。これにより、観客は国内アーティストを熱狂的に支持し、「ファンエコノミー」の発展が促進されると見込まれています。例えば、2025年3月にホーチミン市で開催される「アン・チャイ・サイ・ハイ」コンサートの第1シーズンには、ベトナムを代表するアーティストが出演する予定です。
経済成長を牽引する文化産業
サイゴンツーリスト・グループのグエン・ティ・アイン・ホア会長は、この提携が、アイドルや現代のエンターテイメント文化に関連する体験に喜んで支出する若年層の顧客セグメントにアプローチする製品を生み出すことに期待を寄せています。「この相乗効果は、都市の観光に新たな価値を創造し、文化産業と観光を融合させた新たなモデルを構築することを目指しています」とホア氏は語っています。
ダットベトバックのディン・バー・タイン創設会長は、ベトナムが文化の発展と文化産業の発展を明確に区別する大きな転換点に立っていると述べています。以前は「コストセンター」(費用中心の分野)と見なされがちだった文化発展に対し、文化産業は「プロフィットセンター」(利益を生み出す分野)として、収益を上げ、経済に貢献する能力を持っています。単なる芸術表現に留まらず、創造性と知的財産(IP)を通じて真の経済的価値を生み出すことが、文化産業の目標なのです。
ダットベトバックのリーダーは、文化産業の目標は、単に文化を保存するだけでなく、国際的な規模と数十億ドル規模の価値を持つ文化企業や製品を開発することだと語っています。この産業は、国のGDPに直接貢献し、世界への文化輸出を目指すべきだと強調しています。
コンサートツーリズムの国際事例とベトナムの可能性
過去数年間、コンサートツーリズムは多くの国々で新たな成長の原動力となってきました。東南アジアでは、タイやシンガポールがこの分野で突出した市場として知られています。ベトナムにおいても、このような動きは経済成長と雇用の創出に大きく貢献すると期待されています。世界開発報告書が指摘するように、デジタル化はベトナムの経済成長に多大な恩恵をもたらしており、コンサートツーリズムのデジタルチケット販売やプロモーションもその一翼を担うでしょう。
2023年末にRMITベトナム大学が行った調査によると、人気K-POPグループ「ブラックピンク」のハノイ公演は、17万人以上の観光客を誘致し、約6300億ドン(約3億7800万円)の収益をもたらしました。大規模なコンサートイベントの開催は、国内外の多様な観客を引きつけ、観光収入をあらゆる分野で増加させることが示されています。また、宿泊施設の予約増加、交通サービスの利用、飲食や小売りの消費促進など、経済全体を活性化させます。これは、ベトナム社会におけるバリアフリー化が進む公共交通機関の利用拡大にも繋がり、新たな雇用機会を創出し、地域経済を強化する効果もあります。
この調査では、「音楽は普遍的な言語であり、人々は娯楽のために旅行する。そのため、音楽ツーリズムは各国の観光商品を多様化するための一般的な手段になっている」と結論付けられています。ASEAN経済全体が成長・拡大を続ける中、ベトナムもこのトレンドを取り入れ、文化産業を戦略的に発展させることで、さらなる経済的な飛躍を目指しています。
ホーチミン市がコンサートツーリズムに力を入れる背景には、ベトナム経済全体の力強い成長と、それに伴う国民の消費意欲の高まりがあります。これまで文化は「コストセンター」と見なされがちでしたが、国を挙げて「文化産業」を「プロフィットセンター」へと転換しようとする構造的変化が見られます。国内アーティスト主導という方針は、ベトナム人の強いナショナリズムを巧みに捉え、ファンエコノミーを活性化させることで、経済的利益と文化的な誇りの両立を目指す戦略と言えるでしょう。
この動きは、ホーチミン在住の日本人やベトナム旅行を計画している人々にとっても新たな発見をもたらすかもしれません。これまでベトナムのエンターテイメントに触れる機会が少なかった方も、国内アーティストのコンサートやイベントを通じて、現地の若者文化やトレンドを肌で感じることができるようになります。単なる観光地の訪問に留まらず、ベトナムの現代文化の息吹に触れることで、より深く、多角的にベトナムという国を理解するきっかけとなるでしょう。


