タイの電気通信協会が、AIoT(AIとIoT)を駆使し、国のデジタル経済とAI国家への転換を加速させる新たな戦略を発表しました。新会長のチャックリット・ウライラット氏は、通信業界の役割を単なる「接続サービス提供者」から「デジタル経済の基盤」へと変革する目標を掲げています。Prachachat Businessが報じたこの取り組みは、今後のタイ経済に大きな影響を与える見通しです。
タイ通信業界、デジタルインフラへの変革を加速
タイの電気通信業界は現在、「接続性」を提供するだけの存在から、国の「デジタルインフラ」の中核へとその役割を大きく転換しようとしています。これは、業界が政府に提出した「AI国家」構想とも合致する動きであり、通信が単なる接続手段ではなく、経済全体の基盤となることを目指しています。新しくタイ王国勅許電気通信協会会長に就任したチャックリット・ウライラット氏は、今後3年間でこの変革を推進し、タイをデジタル経済とAI国家へと導くことを目標としています。
デジタル経済推進の5つの柱とAIoTの潜在力
チャックリット会長は、タイをデジタル経済およびAI国家へと発展させるために、特に5つの主要分野を強化する必要があると強調しています。これらは、AI(人工知能)、クラウド/データセンター、量子技術、サイバーセキュリティ、そしてコネクティビティ(接続性)です。特にIoT(モノのインターネット)に関しては、タイはアジア地域で中国に次ぐ高い潜在力と知識を持っていると評価されており、IoTデバイスの普及率も非常に高いです。協会は、AIとIoTを組み合わせた「AIoT」の分野でタイを新たな地域ハブとするため、6月には業界関係者を集めたイベントを開催し、その準備状況を示す予定です。
規制改革とサイバーセキュリティ強化で経済防衛
タイのデジタル経済を安全に発展させるためには、法規制の整備とサイバーセキュリティの強化が不可欠です。協会は、AIの責任ある利用を促す「Responsible AI」に関する規則を推進し、ギャンブルサイトや詐欺のような「現行犯」の犯罪に対しては、通信サービスプロバイダーが即座に信号を遮断できるような法改正を提案しています。また、基地局設置許可の年次更新負担の軽減や、AIやデジタル地図を活用した検査導入も提唱しています。
サイバーセキュリティに関しては、通信業界のCERT(Computer Emergency Response Team)への継続的な予算承認を政府に求めています。これは、現代のサイバー脅威がシステム内の脆弱性を狙うため、組織への迅速な警告システムが不可欠だからです。特に、大手企業は独自のCERTを持つ一方で、協会内の多くの中小企業は独自のセキュリティシステムを持たないため、業界全体のCERTが不可欠だと強調されています。サイバーセキュリティは経済安全保障の基盤であり、国民のデータ保護と中小企業の支援に繋がると考えられています。
デジタル格差の是正とインフラ共有による効率化
デジタル化の恩恵を全国民が享受できるよう、協会は「デジタルリテラシー」から「AIリテラシー」へと国民の知識レベルを引き上げることを目指しています。これにより、国民がテクノロジーを理解し、デジタル詐欺から身を守れるよう支援します。さらに、通信インフラの共有も重要な課題です。現在、各事業者が個別に通信塔やケーブルを設置しているため、投資の重複や景観の悪化、保守コストの増大といった問題が生じています。協会は、事業者間で塔や通信ケーブル、特に乱雑な電線問題の解決策として共同のケーブル収納ボックスの利用を促進することで、コスト削減とサービス品質の向上を図ります。これにより、健全な競争環境を醸成し、最終的には消費者に利益をもたらすことを目指しています。
人材育成とデータ主権確立でタイをIoTハブに
タイがデジタル経済とAI国家へと移行するためには、高度なスキルを持つ人材の育成が不可欠です。協会は、大学と連携してカリキュラムを開発し、従業員のスキルアップ研修を行う企業への税制優遇措置を推進することで、この課題に対処しようとしています。また、データ主権の確保と機器の標準化も重要な柱です。特に監視カメラのようなIoTデバイスから収集される重要なデータは、国内のサーバーに保存されるべきだという考えを強調しています。これは、データの海外流出を防ぎ、国家の安全保障と国民のプライバシー保護を強化するためです。協会は、IoT機器の認証制度や標準化を推進することで、消費者が安全な製品を選べるようにするとともに、タイがASEAN地域のIoTハブとなることを目指しています。
タイの通信業界がAIoTを軸にデジタル経済の基盤へと変貌を遂げようとしているこの動きは、在住日本人や日系企業にとってもビジネス環境の大きな変化を意味します。通信インフラの共同利用が進めば、より安定した高速通信サービスが手頃な価格で利用できるようになり、デジタルビジネスの展開が加速するでしょう。また、サイバーセキュリティやデータ主権の強化は、企業がタイで事業を行う上でのリスク管理にも直結し、より安全なデジタル環境での活動が期待されます。
この戦略の背景には、タイ政府が掲げるデジタル経済ハブとしての地位確立と、国家としての経済安全保障を強化する強い意志が見て取れます。特にIoTデバイスから収集されるデータの国内保存を義務付ける動きは、中国のデジタル戦略や欧州のデータ連携戦略とも共通する、データ主権を重視する世界的な潮流を反映しています。タイが自国のデジタルインフラとデータを管理することで、外部からの影響を最小限に抑え、自立したデジタル経済圏を築こうとする構造的な狙いがあると言えるでしょう。


