中東情勢の長期化がタイ経済に深刻な影響を与え、特に16の主要産業でコスト高騰や原材料不足といった課題が浮上しています。タイ工業連盟(FTI)は、エネルギー価格や輸送費の高騰が広範囲に及び、関連商品の価格上昇を招くと警鐘を鳴らしています。この状況はタイの有力経済紙「カオソッド」が報じました。
中東情勢の長期化がタイ経済に影を落とす
タイ工業連盟(FTI)は、中東紛争の長期化がタイの産業に与える影響について深い懸念を表明しました。FTIのピンチャイ・リーイッサラヌクン会長は、2026年から2028年のFTI運営方針発表会で、エネルギーコストの高騰や原材料不足が、タイ国内の実に16もの産業に影響を及ぼし、関連商品の価格を押し上げると評価しています。これは、国際経済秩序の揺らぎや経済政策の不確実性が高まる中で、タイ経済が直面する新たな試練を示しています。
16の主要産業が直面する具体的な課題
FTIが2026年第2四半期(4月~6月)の産業状況を分析した結果、複数の産業グループが具体的な問題に直面していることが明らかになりました。
- 建設・製造関連:セメント、鉄鋼、アルミニウム、セラミック、屋根材、ガラス産業では、エネルギー価格、原材料価格、輸送費の高騰が生産コストを圧迫しています。
- 化学・包装関連:プラスチック、化学製品(肥料)、印刷・包装産業は、原材料の不足に悩まされています。
- 消費財関連:繊維、衣料品、皮革製品、靴、家具産業は、海外からの安価な輸入品との競争激化に苦しんでいます。
- 観光・工芸関連:宝石・宝飾品、クリエイティブ工芸品産業では、購買力の鈍化と観光客数の減少が大きな課題となっています。
成長を続ける13の有望産業分野
一方で、タイ経済には明るい兆しもあります。FTIの報告によると、13の産業グループが拡大傾向にあり、特に以下の分野が有望視されています。
- 輸出志向型:電気・電子、エアコン、食品・飲料、ゴム製品は、海外市場の拡大の恩恵を受けています。
- 国内需要型:化粧品、医薬品、医療機器、パーム油は、国内需要の成長に支えられています。
- 先端技術型:電気自動車(EV)、機械・自動化システム、バイオテクノロジー、再生可能エネルギー・環境管理、デジタル(データセンター)といった分野は、将来的な成長の牽引役として期待されています。
2026年通年の経済見通し:負の要因と光
2026年を通じたタイ産業の状況を評価すると、いくつかの負の要因が指摘されています。中東紛争の長期化によるエネルギーコストと原材料価格の上昇は、依然として大きなリスクです。また、2026年4月にはインフレ率が2.89%上昇し、原油価格や食料品価格の上昇が消費者の購買力を圧迫しています。年間インフレ率は2.0%から3.0%の範囲で推移すると予測されています。
輸入商品の高騰も顕著で、2026年1月から4月にかけて35.72%増加しました。特に既製服が20.87%増、石鹸・洗剤・化粧品が20.50%増、家電が16.12%増となっています。建設、製造、農業分野での労働力不足も生産能力に影響を与え、さらにスーパーエルニーニョ現象による干ばつリスクや水源減少も懸念されています。
しかし、プラス要因も存在します。投資奨励委員会(BOI)による投資促進策は継続的に成長しており、2026年第1四半期の投資申請額は1兆バーツ(約5兆円)に達し、前年比142%増となりました。特にデジタル/データセンター分野は8,700億バーツ(約4.35兆円)で822%増と驚異的な伸びを見せています。輸出も2026年1月から4月で10.44%拡大し、電子機器は56.98%増と好調です。
政府とFTIによる経済支援策と展望
タイ政府は、4,000億バーツ(約2兆円)の融資法、タイ助け合いプラス、福祉カードへの2,000億バーツ(約1兆円)追加といった景気刺激策を実施しています。エネルギー構造改革はGDPを0.6%から0.8%押し上げると期待され、LTV緩和策や中小企業向け融資アクセス改善策「PromptBiz/Quick Big Win」なども導入されています。タイの信用格付けが「Negative」から「Stable」に改善されたことも、海外投資家の信頼を後押ししています。
FTIは、これらの状況に対応するため「5I政策」を推進し、政府と緊密に連携してタイ産業の迅速な回復を支援する方針です。米国が強制労働に関連する国々に課す関税問題についても、関係省庁が適切な対応策を講じると信じていると述べました。
今回のFTIによる発表は、タイ経済が直面する構造的な課題を浮き彫りにしています。中東情勢のような外部要因によるエネルギーコスト高騰や原材料不足は、タイ国内の製造業にとって直接的な脅威であり、これがインフレ率の上昇や輸入物価の高騰を通じて、在住日本人や日系企業の事業コスト、さらには生活費を圧迫する可能性が高いでしょう。特に、建設、製造、農業分野での労働力不足は、タイ経済が抱える構造的な問題であり、賃金上昇圧力や生産能力の低下を通じて、長期的な競争力に影響を与えかねません。
一方で、デジタル分野やEV、再生可能エネルギーといった新興産業への投資が急増している点は注目に値します。BOIの積極的な投資奨励策や、タイの信用格付け改善は、タイ経済の回復力と成長ポテンシャルを示唆しています。在住日本人や日系企業にとっては、コスト増への対応策を講じつつも、これらの成長分野への参入や連携を通じて、新たなビジネスチャンスを探る時期にあると言えるでしょう。


