米国の大手レストラン企業ユム・ブランズが、傘下のピザハットの米国内事業売却を検討していることが明らかになりました。ファストフード業界全体の需要低迷、健康志向の高まり、インフレによるコスト増が背景にあり、早ければ数週間以内に合意に至る見込みとロイターが5月29日に報じています。
米国ピザハット、事業売却を検討か
ユム・ブランズは、投資会社ロングレンジ・キャピタルに対し、ピザハットの米国事業売却を検討していると報じられています。この動きは、ファストフード業界が長期的な需要減少に直面している中で起こりました。特に、GLP-1と呼ばれる減量薬の普及が消費者の健康志向を加速させ、よりヘルシーな食品選択を促していることも影響しています。
また、インフレの進行と消費者の支出抑制も、この外食大手にとって深刻な圧力となっています。外食を控える傾向が強まり、食材費の高騰と相まって、米国のピザ大手各社は苦境に立たされています。
ファストフード業界を覆う逆風
近年、特に東南アジア市場ではフードデリバリーの利用が拡大し、クラウドキッチンやデリバリーアプリケーションがレストランのリーチを広げています。しかし、米国市場では消費者嗜好の変化、デジタル化の進展、そして健康志向の高まりが、伝統的なファストフードチェーンに新たな課題を突きつけています。2022年以降、チェーン展開を行う事業者やファストフード、デリバリーとの親和性が高いカフェなどが伸びる一方で、ピザハットのような旧来型チェーンは苦戦を強いられています。
ユム・ブランズは、ピザハットの売却を昨年から検討していました。同社の傘下には、タコベルやケンタッキーフライドチキン(KFC)といった他のファストフードブランドがありますが、ピザハットはこれらのブランドに比べて競争力を維持するのが難しい状況にありました。
既存店売上高の低迷と競合他社との差
ピザハットの第1四半期決算によると、既存店売上高は10四半期連続で減少しています。一方で、ユム・ブランズ傘下のタコベルとKFCは、それぞれ5四半期連続で既存店売上高を増加させており、ピザハットの不振が際立っています。
この売却報道を受け、ユム・ブランズの株価は時間外取引で約3%上昇しました。ロングレンジ・キャピタルの他にも、シカモア・パートナーズやアポロ・グローバル・マネジメントなど、複数の投資会社がピザハットの買収に関心を示していると報じられています。
AI導入が招いた配達トラブルと訴訟問題
ピザハットは今年初め、事業の効率化を図るため、米国内の6,000店以上ある店舗のうち約250店の閉鎖を検討していました。さらに3週間前には、テキサス州の裁判所でフランチャイズ加盟店との間で訴訟問題が発生しました。
ニューヨーク、ニュージャージー、メリーランド、ワシントン、ペンシルベニアの各州で111店舗を運営するフランチャイズ企業、チャアック・ピザ・ノースイーストは、ピザハットがAIを活用した配達管理プラットフォーム「ドラゴンテール」の導入を強制したと主張。このプラットフォームは、ドライバーが厨房での調理状況や配達時間をリアルタイムで追跡できるものでしたが、これによりドライバーが複数の注文をまとめて配達するために最長15分も待機する事態が発生しました。
結果として、標準の30分と比較して配達時間が1.5倍に延び、顧客の不満と売上減少を招き、チャアックに1億ドル(約157億円)の損害を与えたと訴えています。
米国レストラン業界のM&Aトレンド
米国レストラン業界では、現在M&Aの動きが活発化しています。特にデニーズ、ポットベリー、カリフォルニア・ピザ・キッチンといった一部の小規模チェーンは、高騰する原材料費と外食需要の減少を背景に、株式市場から撤退する動きを見せています。
パパ・ジョンズ・インターナショナルもまた、売却先を探しています。投資会社アース・キャピタル・マネジメントは、同社の米国における最大フランチャイズ加盟店と協力し、事業を非公開化する方向で動いています。これは、インフレによるコスト増と消費者の節約志向が続く中で、企業が生き残りをかけて戦略的な再編を進めていることを示しています。
今回のピザハットの売却検討は、米国のファストフード業界が直面する構造的な課題を浮き彫りにしています。健康志向の高まりやGLP-1薬の普及は、消費者の食習慣に変化をもたらし、高カロリーなファストフードの需要を減少させています。また、AI導入による配達遅延の問題は、テクノロジーが必ずしも効率化に繋がるとは限らないという教訓を提示しており、特に東南アジアで急速に成長するフードデリバリー市場にとっても重要な示唆と言えるでしょう。
インフレとサプライチェーンの不調は、タイやベトナムを含む東南アジアの外食産業にも同様に影響を及ぼしています。原材料費の高騰は利益率を圧迫し、消費者の節約志向は外食頻度を減少させます。このような状況下で、企業はM&Aによる再編や、より顧客ニーズに合致したサービスの提供を模索せざるを得ません。ピザハットの事例は、グローバルな外食産業が直面する課題と、それに対する戦略的対応の難しさを示しています。


