ベトナム中部のカーンホア省は、1800年前の古都チャム文化のホアライ塔を保護するため、南北高速鉄道のルート変更を提案しました。これは、5月25日に開催された人民委員会会議で、建設省に対し路線再検討を求める方針が示されたものです。VnExpressによると、この動きは国の重要文化財と大規模インフラ開発との間で生じる課題を浮き彫りにしています。
ホアライ塔の歴史と重要性
ホアライ塔は、8世紀に建設されたチャム族の塔群であり、国道1号線沿いの約5,000平方メートルの敷地に広がっています。かつてニントゥアン省トゥアンバック社に位置していたこの塔は、チャンパ王国時代の 最も古く美しい建築物の一つとされ、文化・建築的価値を色濃く保持しています。
2016年には国の特別史跡に指定され、国内外から多くの観光客や研究者が訪れる重要な拠点となっています。その歴史的、文化的な意義は計り知れず、ベトナムの多様な民族文化を象徴する存在です。
高速鉄道計画と文化財保護の衝突
カーンホア省建設局によると、南北高速鉄道の事前フィージビリティ調査段階で、同省を通過する高架橋の一部が、複数の教会、墓地、そしてホアライ塔群に 直接的な影響を及ぼすことが判明しました。文化遺産法に基づき、国の特別史跡に指定された建造物の周辺は「不可侵」とされており、この法律が開発計画の大きな障害となっています。
ベトナムでは、古くから存在するチャム族などの少数民族の文化財保護が法的に重視されており、特に国家的な遺産は開発から守るべき対象とされています。これは、ベトナムが多民族国家として、それぞれの民族文化の伝承と保護に力を入れている背景があります。
カーンホア省の対応と今後の見通し
カーンホア省人民委員会常任副委員長のグエン・ロン・ビエン氏は、報告を受け、建設局に対し関係部署と連携し、早急に現場調査を実施するよう指示しました。そして、既存の障害を再検証し、建設省に対し、文化遺産を侵害しないよう、 路線の再計算と調整を要請する方針です。
カーンホア省を通過する南北高速鉄道の区間は約191キロメートルに及び、ディエンカーンとタップチャムの2つの旅客駅、そしてヴァンフォン経済特区と連携するニンホア貨物駅の計3駅が計画されています。この高速鉄道は、ベトナムの経済発展と地域間連携を強化する上で不可欠なインフラプロジェクトと位置付けられています。
再定住計画と費用
路線変更や建設に伴う用地収用のため、カーンホア省は31箇所の再定住区画を整備する予定です。これには総額1兆7400億ドン(約10億4400万円)以上の費用が見込まれており、既存の13区画に加え、新たな建設または拡張が行われます。大規模なインフラ開発には、住民の再定住という社会的な側面も伴い、多額の予算と周到な計画が求められます。特に、用地収用や再定住は、ベトナムにおける大規模開発プロジェクトにおいて 常に課題となる点です。
今回のカーンホア省の動きは、ベトナムが抱える「経済発展」と「文化遺産保護」という二律背反の課題を象徴しています。特に、チャム族の遺産は国の重要な文化資本であり、国際的な観光資源としても価値が高まっています。しかし、南北高速鉄道のような国家的なインフラプロジェクトは、ベトナムの国際競争力強化に不可欠であり、この両者のバランスをどう取るかが、今後のベトナム開発の構造的な課題と言えるでしょう。
在住日本人や日系企業にとっては、このような大規模インフラプロジェクトの進捗は、サプライチェーンや物流、そして地域経済の活性化に直結します。一方で、文化財保護を巡る議論は、プロジェクトの遅延やコスト増につながる可能性も孕んでいます。ベトナムでの事業展開を考える上で、単なる経済指標だけでなく、文化・社会的な側面も深く理解し、予見しておくことが重要です。


