ベトナム財務省は、証券市場の電子取引において顔認証などの生体認証を義務付ける通達草案を発表しました。この新規定はセキュリティと透明性の向上、不正操作行為の防止を目的としており、今年8月からの施行が予定されています。VnExpressが報じたところによると、特に外国人投資家にとって市場アクセスが容易になる見込みです。
ベトナム、証券取引に顔認証義務化へ:セキュリティ強化で市場透明化
ベトナムのボー・タイ・チン(財務省)は現在、証券市場における電子取引に関する通達草案について、広く意見を求めています。この草案は、市場のセキュリティと透明性を高め、不正な操作行為を防止するために、多くの新しい規定を追加するものです。特に、オンラインでの証券売買には、投資家の顔認証生体認証が必須となる方針で、これはログインセッションにおける初回取引時に少なくとも1回実施されます。
現在のベトナム証券市場では、多くの証券会社やファンド管理会社が、口座開設時にeKYC(オンライン本人確認)を通じて生体認証情報を利用しています。しかし、オンライン取引における生体認証の利用は、これまではOTP(ワンタイムパスワード)との選択制で、強制的な規定がなかったため、各機関が自主的に導入している状況でした。今回の草案は、この状況を大きく変え、セキュリティの基準を国際的な慣行に近づけることを目指しています。
オンライン取引の認証厳格化:初回ログイン時に顔認証必須
新しい通達草案では、電子取引の認証形式として、OTP、電子署名、生体認証情報の一致、2要素認証など、計6つの方法が規定されています。この中でも特に注目されるのが、顧客の生体認証情報が、市民証(カンクォックコンザン)のチップに保存されたデータ、またはVNeIDアカウント、あるいはオンライン証券サービス提供機関のデータベース内の生体認証データと照合される必要がある点です。
オンラインで証券を売買する際、投資家は顔認証生体認証を行うことが義務付けられます。これは、各ログインセッションの最初の取引時に少なくとも1回実施され、もし投資家が連続して10回認証に失敗した場合、その機能はロックされます。機能の再開には、証券サービス提供機関による顧客の確認と認識が必要となります。また、サービス提供機関は、認証と証券売買が同一のデバイスで行われるよう、技術的な措置を講じることが求められ、これにより不正行為を制限し、取引者と口座所有者が同一人物であることを確認する能力が向上します。
口座開設・高額送金も対象:銀行と同水準の保護へ
顔認証生体認証は、オンライン証券売買だけでなく、証券口座の開設や閉鎖、さらには1,000万ドン(約6万円)を超える現金の引き出しや送金といった高額取引にも適用が義務付けられます。この規定は、ベトナムの銀行が現在実施しているセキュリティ対策と同様のものであり、顧客資産の安全性を保護することを主な目的としています。
ベトナム政府は、金融システムの健全性を高め、デジタル経済の進展を加速させる中で、金融テクノロジー(フィンテック)の活用を積極的に推進しています。タイでは、即時送金や統一QRコードが生活インフラとして定着し、資本市場では社債発行手続きの全面電子化が進むなど、ASEAN諸国全体で金融デジタル化の動きが加速しており、ベトナムもこの流れに追随し、より安全で効率的な金融取引環境の構築を目指しています。
国際市場への格上げを見据え:外国人投資家への信頼性向上
ボー・タイ・チンによると、今回の規制強化の背景には、ベトナム証券市場が2026年9月からFTSEラッセルによって新興市場(二次)に格上げされるという重要な節目があります。この格上げは、ベトナムが国際的な資本市場においてより高い評価を受けることを意味し、それに伴い国際慣行に近づく電子取引に関する法的規制が緊急に必要とされています。
新規定は今年8月から施行される予定で、これにより外国人投資家にとって市場へのアクセスがより容易になり、市場の透明性が向上すると期待されています。また、オンライン取引システムの安定性とリスク耐性が高まることで、ベトナム市場全体の信頼性が大きく向上すると見込まれています。ベトナムには現在1,290万以上の証券口座があり、そのうち国内個人が1,283万口座と圧倒的多数を占めていますが、今回の規制強化は、海外からの投資をさらに呼び込み、市場の多様性を促進する上でも重要な一歩となるでしょう。
ベトナムにおける証券取引の顔認証義務化は、在住日本人や日系企業がベトナムの資本市場に投資する際の意思決定に大きな影響を与えるでしょう。セキュリティの強化は歓迎すべき進展であり、不正リスクの低減は投資家の信頼を高めます。しかし、認証手続きの厳格化は、特に高額取引や口座開設・閉鎖時において、従来のプロセスよりも時間や手間がかかる可能性があり、投資の利便性に一時的な影響を与えることも考えられます。
この動きは、ベトナムが経済成長を加速させ、国際金融市場における存在感を高めようとする強い意欲の表れと解釈できます。ASEAN諸国が金融デジタル化と国際化を競う中、ベトナムは法制度とインフラの整備を通じて、外国人投資家にとって魅力的な市場環境を創出しようとしています。今回の規制強化は、単なるセキュリティ対策に留まらず、ベトナムの金融システムが国際基準に適合し、より安定した成長軌道に乗るための戦略的な一手と言えるでしょう。


